四半期を振り返る会議で社員に頭を下げ続けた

「すごいです、社長。今日は居眠りしている社員がゼロでした!」

2017年4月3日、社長就任初日に全社員に向けメッセージを発した直後、ある社員にこんなことを言われました。驚いたのは私のほうです。思わず、「いつもは寝ている人がいたのか」と聞き返してしまいました。

樋口泰行さん
撮影=宇佐美雅浩

年度の初めにカンパニーのトップがメッセージを発するのは「総合朝会」という会社の恒例行事でした。社長が演台の前に立って用意した原稿を読み上げ、全社員がそれをかしこまって聞くという昔からのスタイルが踏襲されていたそうです。

総合朝会の開催中は、ほとんどの社員が仕事の手を止め、全国の工場で製造ラインが止まることになる。コスト計算するとかなりの額に相当します。そんな朝会で居眠りする社員がいた。コストに見合うだけの価値がなかったことは明白です。

上意下達に代表される軍隊的な組織運営では、事業環境が急変するこれからの時代を生き残ることはできません。企業カルチャーを一変させる大変革が必要だと考えていた私は、新トップとして全社員の前に立つ最初の機会に、強力なパッションをもってメッセージを伝えたいと思っていました。

そこで、まず集会の名称を「総合朝会」から「オールハンズミーティング」に変更、演台は撤去してもらいました。あらかじめ準備した原稿を読み上げるのではなく、その瞬間に発せられるリアルな言葉で訴えなければ、皆のモチベーションに火をつけるような話はできない――。私は舞台を右へ左へと歩き回りながら、身振り手振りを交えて、会社のカルチャーと働く従業員のマインド改革の必要性を訴えかけました。

また、その場で全国の社員から、生の質問を受け付けました。総合朝会では事前に質問と回答を用意するケースもあったようですが、オールハンズミーティングは一切の仕込みなし。本気の質問を正面から受け止め、真剣に答える姿を見せることで、「本気で今までの仕事の進め方を変えるつもりなんだ」と、社員に私の気概を感じ取ってもらおうとしたのです。私のパッションが伝わっていることは、目の前で聞いている人たちの表情や眼差し、会場に張り詰めた空気からありありと感じることができました。

その後も四半期ごとに開催していたオールハンズミーティング。業績が上向いてきたときには、「ありがとう」という言葉とともに数秒の間、社員に頭を下げ続けたこともありました。それまで、カンパニーのトップがここまで社員に頭を下げることはなかったようで、社員の多くを驚かせたそうです。

会社を変えたいとトップだけが思っていても意味がない。社員が同じ気持ちになり、同じ思いに共鳴するからこそ、変革へのエネルギーが生まれてくるのです。トップは自身の気持ちを出すことに、臆するべきではありません。

パナソニックコネクトに社長室はありません。私のデスクは見通しのいいオフィスフロアの真ん中に配置してあり、私は周囲360度をスタッフに囲まれて仕事をしています。役員を含め、社員はフリーアドレス。物理的にも心理的にも“壁”はすべて取り払い、誰でもいつでも話しかけてもらえるようになっています。