創業以来自家製麺にこだわり、化学調味料は使わない。一方で、“無かんすい”では「ロマンがない」と断言する。なぜ「飯田商店」は独自のスタイルを貫くのか。店主の飯田将太さんは「ラーメンの味に不安になったときは、生産者さんを訪ねる。その顔を思い浮かべる。飯田商店のスタイルはラーメンの伝統を守り、麺とスープを調和させることに心血を注いできた結果だ」という――。(第2回/全4回)

※本稿は、飯田将太『本物とは何か』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

飯田将太さん
写真撮影=合田昌弘
「飯田商店」を代表する「しょうゆらぁ麺」。しかしその味が定まるまでには、いくつもの困難があったという。

「醤油の迷い」が原点

飯田商店は2010年3月16日、僕が32歳のときに、比内地鶏の鶏ガラでスープを取った「しょうゆらぁ麺」から始めた。主な材料は鶏ガラと醤油だけ。

醤油は、生揚げ醤油3種から始めた。生揚げ醤油とは、しぼりたての醤油で、加熱処理をしていないもの。醤油は火入れという加熱処理で風味が大きく変わる。だからこの火入れをメーカー任せにせず、ラーメンに合うように自分でする。

この醤油だれのつくり方は、僕をラーメンに本気で向かうことを決意させてくれた大恩人の「支那そばや」の故・佐野さのみのるさんが始めた方法だと聞いている。すごいことだと思う。

僕は、本格的なラーメン店で修業をしていない。そのため、自分の中で決まった味をもっているわけではなかった。だから簡単に味が定まらない。

醤油だれも、それぞれ1mlずつ量を変えて、めながらブレンドしていく。火入れの時間や温度も変えていく。いろいろ試していくと何が何だかわからなくなる。味に行き詰まる。

それなら、もっと醤油を知れば、もっと違う味を出せるのではないか、と思うようになった。

生産者の元へ足を運ぶ

まず醤油蔵に行って仕込みを見させていただき、話を聞くことから始めた。すると、それぞれに違いがあることがわかるようになった。

そもそも場所が違う、蔵が違う、みついている菌が違う。もっと言えば、木桶によって風味も違う。出荷されるタイミングによっても違う。つくっている人の気持ちも違う。当然、常に同じものができるはずはない。

それぞれの違いがわかると、この醤油のどこを大切にして醤油だれをつくればいいのかが少しずつわかるようになる。わかったような気がしただけかもしれないが、生産者さんにお会いすることで気持ちが切り替わって、またやり直すことができた。

鶏も見にいった。比内地鶏の特性が少しずつわかってきたら、ほかの地鶏をブレンドすることもありだなと思えるようになった。鶏の肉も使いたいと思った。

醤油と鶏の組み合わせだけでもどんどん可能性が広がっていく。こうして、いろいろな食材を見にいくことが始まった。

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