トランプを「操る」プーチンの狙い
2人が非常に親しいことは、ウッドワードの新著『WAR』からあらためて明らかになった。コロナ感染の最盛期に、トランプはコロナウイルスを検出する検査機器をプーチンに贈ったという。また、フロリダ州の別荘でトランプは、自分の部屋でプーチンに電話をする際には、人払いをし、側近にも会話内容を聞かせないようにしているという。
トランプがこれほどの神経質な態度を示していることもあり、ダン・コーツ元国家情報長官やストローブ・タルボット元国務副長官ら元米政府高官は、「プーチンはトランプを操っている」との見解で一致している。
ではプーチンは、トランプを使って何をさせようとしているのか。
プーチンとしてはまず、NATOの拡大を止めたい。具体的にはウクライナのNATO加盟阻止、米国のウクライナへの軍事援助停止、米国のNATO離脱を実現したいと考えてきたに違いない。
今もトランプが口にする「米国のNATO離脱」
トランプは第1期政権の2018年以降、ホワイトハウス内で数回、米国の「NATOからの離脱」を口にしたと伝えられる。最初にそれを言い出した時は、本気かどうか分からなかったが、何度も言及するので高官らは不安を募らせたという。大統領補佐官(国家安全保障担当)を務めたジョン・ボルトンらが証言している。
米国がNATOから離脱すれば、NATO体制は崩壊する。米国という核超大国あってのNATOだ。米国が離脱すれば、米国が西側諸国に対する支配的地位を維持して世界平和を保つという戦後の「パックス・アメリカーナ」も終焉の時を迎える。プーチンは米国の支配体制を崩壊させようとしていると、「エスタブリッシュメント」の米政府高官らは警戒している。
しかし、トランプは「NATOからの離脱」と口にしただけで、ジョン・ケリー首席補佐官、ジョン・ボルトン/ハーバート・マクマスター両補佐官(国家安全保障問題担当)らの猛反対に遭い、引き下がった。トランプはこれらエリート官僚を「ディープステート」と呼んでいる。意訳すれば「地下政府」とも言える。「秘密結社」と誤解させて、陰謀論につなぐ意図があるかもしれない。
トランプは今なおこの言葉を使い、2025年1月からの第2期政権では、これらエリートを一掃して、新たに5000人の同志を入れるとも発言していた。