米国のトランプ大統領とロシアのプーチン大統領が急接近している。かつて米大統領選にも介入したとされるプーチン氏は、なぜトランプ氏を情報工作の標的にしたのか。国際ジャーナリストの春名幹男さんは、「NATOの拡大を止めたい。具体的にはウクライナのNATO加盟阻止、米国のウクライナへの軍事援助停止、米国のNATO離脱を実現したいと考えてきたに違いない」という――。
※本稿は春名幹男『世界を変えたスパイたち』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

米ニューヨーク州アトランティック・シティにあったトランプ・タージ・マハール 。1991年破産、その後紆余曲折を経て、現在はハードロック・ホテル&カジノとして営業〔2003年撮影〕(画像=Jrballe/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons)
1990年代にトランプが陥った「ホテル危機」
プーチンはなぜ、トランプに目をつけ、大統領選挙で支持したのか。「不動産王」と呼ばれたトランプとロシアの接点はどこにあったのか。冷戦後の1990年代からトランプが展開してきた、ビジネスの状況から点検していきたい。
米国民が2016年当時トランプに抱いたイメージは「大成功したビジネスマン」だったとみられる。だから、彼に思い切った政治を期待する、と考えて投票した米国民が多かったようだ。
しかし現実を見ると、意外な事実が浮かび上がる。トランプが倒産させた主要なケースは以下の通りだ。いずれもホテル、ないしはカジノ・ホテルである。
1991年 トランプ・タージ・マハール(ニュージャージー州アトランティックシティ)
1992年 トランプ・プラザ・ホテル&カジノ(同)、トランプ・キャッスル・ホテル&カジノ(同)、プラザ・ホテル(ニューヨーク)
2004年 トランプ・ホテルズ&カジノ・リゾーツ
2009年 トランプ・エンターテインメンツ・リゾーツ
1992年 トランプ・プラザ・ホテル&カジノ(同)、トランプ・キャッスル・ホテル&カジノ(同)、プラザ・ホテル(ニューヨーク)
2004年 トランプ・ホテルズ&カジノ・リゾーツ
2009年 トランプ・エンターテインメンツ・リゾーツ
トランプ自身はこれらの倒産について『ニューズウィーク』誌に「(債務減らしの道具として)破産法をうまく使っている」と発言している。
現実には、1980年代には70行以上の銀行がトランプに約40億ドルを貸し付けていた。しかし1990年代の連続破産で米銀行は手を引き、取引銀行はドイツ銀行とドイツ・バイエルン州の銀行の2行だけになったと言われる。特別検察官は2018年、ドイツ銀行を召喚、捜査している。