愛人業で稼ぎたい女と、妾を求める男がマッチング
これが、『江戸繁昌記』のランクで、「下」の囲い者の実態だった。
親と同居している娘が囲い者になり、そこに旦那が通ってきたのである。
要するに、親としては娘に稼がせ、自分は養ってもらうつもりなのだ。
囲い者は、当時としては高収入が得られる女の職業、つまりセックスワーカーだった。
図版6は、画中に「うらすまい」とある。また、右端の箒を使っている女は「かこいもの」と記されている。つまり、裏長屋に住む囲い者の姿である。『江戸繁昌記』の分類によれば、「下」の囲い者になろうか。
囲い者は社会的に認知されたセックスワーカーだったのが、図版7でわかる。
口入屋は、職業紹介所である。
さて、図版7は口入屋の入口付近の光景。看板には、
「きもいりや 御奉公人口入仕候」
と書かれている。
仲介人に頼み「ひと月だけでも」と妾を求める男もいた
肝煎屋は口入屋のことである。
人物にはそれぞれ説明があり、右端の立っている女は、「月きわめのかこいもの」、つまり、月ぎめ契約で囲い者をしている女、右から二番目の高齢の女は、「きもいりかゝ」、つまり、口入屋の女房、床几に腰をおろしている女は、「めかけの目見え」、つまり、囲い者になりたくて、口入屋の面接を受けにきた女、左端は、「子もり」、つまり子守の奉公人、という具合で、口入屋で囲い者の紹介をしていたのだ。
囲い者がほしい男は、自分の好みや期間、予算などを告げて、口入屋に登録しておく。いっぽう、囲い者になりたい女も自分の要望などを登録しておく。口入屋はふさわしい組み合わせだと思うと、両者を引き合わせ、おたがいに納得すると、契約となる。
囲い者は仕事であり、当時の言葉では「妾奉公」だけに、口入屋があいだにはいって、きちんと証文を作成し、たがいに取り交わした。
なお、図版7から、月契約の囲い者もいたことがわかる。
これは男の側からすれば、金に余裕がないので、せめて1カ月間だけでも囲い者を持ちたいという念願であろう。また、1カ月単位で次々と女を代えて楽しみたいという男もいたろう。
いっぽう、女の側からすれば、時にはいやな男もいる。そんな場合、月契約なら、1カ月間だけ我慢すればいいので、リスク回避の意味もあったろう。