支援も治療も受けられるという「朗報」だが…
朗報がもたらされたのは、4日前のこと。駄目で元々という気持ちで声をかけた人物から返事があった。その人は、生活困窮者を支援する会の代表を務めていた。その会は、法人格もなく、ボランティアグループに近い、私的な団体だった。
彼は、本人が望むなら引き受けてもいい、と言う。彼の団体は、設立当初から精神科クリニックと連携しており、そこで、投薬治療も受けられるようだ。そのありがたい話を受け、早速、この日の面談がセットされたのである。
心のうちでは、川端さんも喜んでくれるだろう、と考えていた。けれども、実際はそうではなかった。
「なあ川端さん、あんたも難儀な人やな。もう頼むわ、正気に戻ってくれへんやろか」
刑務官は、懇願するような口調になっている。
「この通り、お願いやから、福祉の支援、受けてくれんか」
最後は深々と頭を下げた。
「バイデン大統領が助げでけるがら、大丈夫」
川端さんは真顔でそう答え、それっきり黙り込んでしまった。
出所の5人に1人以上が受ける「26条通報」
社会復帰調整というのは、本人の同意がないまま、話を進めることはできない。
本人が承諾しないのであれば、あとはもう、やるべきことはひとつ。精神保健福祉法にもとづく26条通報だ。そこに、一縷の望みを託すしかなかった。
精神保健福祉法26条の内容を要約すると、こうなる。
何を目的とした通報なのか。それは、通報を受けた自治体側が、対象となる出所者を医療機関につなぐためのものであろう。しかし、実態としてはどうか。残念ながら、自治体が動いてくれることはほとんどない。
『矯正統計年表』によれば、2023年の出所者総数1万6233人のなかで、3537人が、帰住地の自治体に26条通報されている。だが、そのうち医療につながったのは、わずか51人に過ぎない。
その少なさもさることながら、やはり何よりも驚かされるのは、通報者の多さではないか。3537人というと、全出所者の約22パーセントだ。刑務所側は、出所者の5人に1人以上が、精神障害やその疑いのある者と判断していたのである。