障害のある人、高齢者の割合が高い

精神障害者だけではない。刑務所内には、知的障害のある人たちもたくさんいる。

日本の刑務所では、受刑者となった者は、まず知能指数の検査を受けなくてはならない。『矯正統計年表』に、その結果が記載されている。2023年の新受刑者総数1万4085人のうち、2割以上が知的障害を表すIQ69以下の者ということだ。

もちろん、一人が両方の障害を抱えている場合もあるだろうから、単純に、受刑者の4割以上に精神障害や知的障害がある、とはいえない。でも、その割合が、一般社会とは比にならないほど多いことは確かである。

精神や知的に障害のある受刑者は、mentalの頭文字をとり、「M指標受刑者」として、医療刑務所や医療重点施設で処遇されていた。また、一般の刑務所でも、多くの受刑者がスモールM、すなわち「m指標受刑者」として服役している。川端さんも、その一人だった。

我が国の刑務所は、高齢化率も、世界の国々のなかで突出して高い。日本社会全体に占める70歳以上の人たちの割合は、この20年の間に、約2倍になったが、受刑者全体に占める割合では、約5倍に膨らむ。

シニアの手
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刑期満了日、妹が兄を迎えに来てくれた

高齢者や障害者で溢れる我が国の刑務所──。今や刑務所というところは、福祉の代替施設と化してしまっていた。私の知る限り、高齢受刑者や障害のある受刑者の多くが、寄る辺のない身だった。出所したとしても、頼るべき人がいないのである。

では、あれから川端さんがどうなったのか。それについては、後日、あの年配の刑務官から報告を受けていた。

「いやー、ほんまに良かったです。出所間際になって、妹さんから手紙が届きましたんですわ。で、急転直下、引き受けオッケーやと……。刑期満了の日は、妹さん、遠くからやのに、ちゃーんと迎えに来てくれましてね、川端と向きおうて、『兄ちゃん、長い間、お疲れ様』て、目え……、目え潤ませながら言うとりました……」

そう話す刑務官の声も潤んでいる。

「川端も大人しゅう、妹さんについて帰りましたわ。やれやれでした。せやけど、一番喜んどったんは、川端のおった工場の工場担当です」