統合失調症は考慮されず、刑事被告人に

福祉の支援──。確かに前回の面談時、最後になって、ようやくその言葉が聞かれた。だがそれも、誘導尋問に近かったように思う。はじめのうちはずっと、自分は皇室の人間だから大丈夫、と言い張っていたのだが……。いずれにせよ、重い統合失調症を患っていることは明らかだった。

服役前の彼は、路上生活を送っていたという。最初に捕まったのは、置き引きによってだ。この時、精神鑑定は行なわれず、当たり前のように刑事被告人となった。刑事責任能力が問われることはなかったのである。裁判では、初犯であり、かつ被害が軽微であったため、執行猶予を付した判決が下される。

ところが、釈放後すぐだった。公園で女子中学生に話しかけたところ、即座に、不審者として警察に通報される。たぶん彼は、パニック状態になったのだろう。駆けつけた警官を前に暴れだしてしまい、「公務執行妨害罪」での現行犯逮捕となる。

またも裁判にかけられた彼は、前刑の執行猶予も取り消された。結局、2回の裁判を受けたあと、合わせて2年半の刑期で服役することになったのだった。

裁判所の看板
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唯一の親族である妹は身元引受人を拒否

彼には、出所しても、帰る場所がない。両親は、すでに他界していた。親族として妹が一人いるものの、兄の身元引受人になることを強く拒んでいるらしい。

川端さんは、まともな仕事に就いた経験がなく、精神科病院への通院歴もあった。そして今は、犯罪者となり、刑務所に服役している。妹は、そんな兄の存在に苦悩し続けてきたようだ。一緒に暮らしていた当時は、夜中に奇声を上げられ、近隣住民に謝って回ることもたびたびだったという。

それでも、やはり血を分けた兄妹だ。兄の服役後、一度は面会に訪れてくれたのである。しかし、そこまでだった。精神疾患の症状が、さらに悪化している兄の姿を見て、いよいよ自分の手には負えない、と感じたのだそうだ。

私が、彼の社会復帰調整を手伝うようになったのは、2カ月ほど前からだった。以後、何人もの福祉関係者に当たり、引き受けを依頼した。だが予想通り、なかなか引き受け先は見つからない。自分が関係する更生保護法人やNPO法人もあるが、川端さんが生まれ育った地域から遠く離れた場所にあり、彼の希望には沿えなかった。