時代や人々の意識の変遷により、本来の意味とは違う意味で使われるようになる言葉がある。だが、主にビジネスの世界では多くの世代が意見を共有するために正しい語彙の理解が必要になる。『[新版]大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』を上梓した国語講師・吉田裕子さんに近頃しばしば耳にする「誤用されやすい言葉」を紹介してもらおう――。

※本稿は、吉田裕子『[新版]大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

吹き出しに、「御の字」「白羽の矢が立つ」「垂涎(すいぜん)」の文字
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長く使っている間に、本来の意味から変化して使われるようになった言葉が多くあります。あなたはどちらの意味で使っているでしょうか? いくつか取り上げてみましたので、チェックしてみましょう。

「潮時」はちょうどよいやめどき?

おんの字」

 大いにありがたい
 一応、納得できる

「御」の字をつけて呼ぶほど、ありがたがることですから、最上のもの、望みが叶って十分に満足できることに使います。江戸初期に、遊女たちの使っていた言葉が広まりました。

現在では、「まあまあよい」「一応、合格点」という意味で使う人が過半数です(文化庁「平成20年度国語に関する世論調査」)。

〈point〉大満足には「本望ほんもう」「会心の出来」、まずまずなら「及第点」を使います。

潮時しおどき

 ちょうどよいとき
 ちょうどよいやめどき

航海する際に、潮の満ち引きや流れのいいときを「潮時」と呼びました。ですから、ぴったりのタイミングを意味しているだけで、否定的な語感はとくにありませんでした。

ただし現在ではもっぱら、引退・撤退・別れの決断にちょうどいいときという意味で使います。

〈point〉ちょうどよいときにやめられないことや、決断力のない状態を「往生際が悪い」といいます。

「白羽の矢が立つ」

 犠牲者として選ばれる
 名誉な役割に選ばれる

神様が生け贄を要求するとき、家の屋根に白羽の矢を立てると信じられていました。生け贄になるわけですから、つらい役がまわってくるという意味でした。

しかし、由来が忘れられ、よい意味で使われることが増えました。決まった形の慣用句なので、「白羽の矢が当たる」と変えてしまわないようにしましょう。

〈point〉大人数から選出するという語にはほかに「抜擢する」「ふるいにかける」があります。

垂涎すいぜん

 食べたくてよだれを垂らすこと
 あるものを欲しいと熱望すること

よだれを垂らす」わけですから、もともと食べ物を欲しがる様子をいう表現です。

それほど上品な言いまわしでもないのですが、比喩的に何かを強く求めることをいう表現として広く定着しています。「ファン垂涎の再演」などと使われています。

「すいえん」と読むのは、本来誤りです。

〈point〉何かを楽しみに待つ様子は「待望」「待ち焦がれる」「待ちかねる」と表せます。