経済制裁で部品が手に入らない

最大の問題は部品不足だ。2025年用に確保していた戦車部品はすでに底をつき、燃料ヒーター、高電圧電気系統、赤外線熱映像装置といった重要機器は、欧州からの輸入が制裁で途絶えたままだ。

製造の現場からは、さらに切羽詰まった実態が垣間見える。エコノミスト誌の報道によると、兵器工場の溶接作業は今でも手作業が中心だという。24時間操業を目指してはいるものの、人手が集まらない。設備面でも課題が山積みであり、かつてドイツやスウェーデンから購入した工作機械の多くが老朽化し、維持管理さえままならない状況だという。

T-90M主力戦車
T-90M主力戦車(写真=ロシア連邦国防省/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

砲身の生産問題もロシアに重くのしかかる。生産ラインには、高い硬度の工作を実現する特殊な金属加工機械である、オーストリア製の「回転鍛造機」が欠かせない。だが、これを備えた工場はロシア国内にわずか2カ所。年間生産能力は1工場当たり約100本に過ぎないといい、実戦で必要な数千本規模には遠く及ばない。ロシア軍は激しい砲撃を繰り出しており、砲身の寿命は極めて短い。

ルジン氏は、「ロシアには鍛造機を自力で製造する技術がありません。1930年代にアメリカから輸入した機械や、第二次世界大戦後にドイツから接収した設備に依存したままの状態です」と指摘する。

装甲車両を温存、歩兵を前に出す戦術にシフト

Oryxの調査報道によると、ロシア軍の戦車保有数は開戦時と比べ、わずか48%にまで落ち込んでいる。装甲戦闘車両の残存率も同水準だという。

2022年のロシアのウクライナ侵攻中に、ウクライナ領土防衛軍によってハリコフ地域で破壊されたロシアのT-90M戦車
ウクライナ軍によって破壊されたロシアのT-90M戦車(写真=АрміяInform/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

こうした生産能力の限界は、すでに前線での戦闘にも明確な影響を及ぼしている。カタールの衛星放送局・アルジャジーラは、ロシア軍の装備不足は、もはや危機的な状況に達しているとみる。ウクライナ軍第25空挺旅団でポクロフスク地域の防衛に当たるセルヒー・オキシェフ軍曹は、同局の取材に、「ロシア軍はもはや装甲車両に頼れない状況です。その代わりにバギーやゴルフカート、一般の乗用車まで戦場に投入しています」と戦場の実態を明かした。

ウクライナ東部の要衝クラホーベに駐屯するウクライナ軍報道官も、同様の変化を指摘する。「この数週間、ロシア軍は装甲車両を伴わない歩兵主体の攻撃にシフトしました。装甲車両は後方からの火力支援に徹し、最前線での攻撃には加わっていないようです」と述べる。