酒にすがりつくロシア人
ロシアのアルコール危機が深刻化している。2024年1~10月期の小売販売量が過去最高を記録し、アルコール依存症も10年ぶりに増加に転じた。
背景として、ウクライナ戦争によるストレスが指摘されている。軍事作戦の長期化で国民の精神的緊張が高まり、アルコールに依存する傾向が強まっているという。クレムリンの職員ですら、業務中の飲酒量が「1杯」から「1本丸ごと」に増えたとの海外報道も出ている。
影響はロシア国民だけでなく、ロシア軍内部にも及ぶ。シベリアのある市では、採用された新規入隊者の大半がアルコール依存症者との状況だ。防空壕での一気飲みや、酔った兵士への体罰など、規律の乱れも目立つ。
歴史的にもロシア軍は、アルコール依存症に苛まれてきた。むしろ戦士たちを鼓舞する向精神薬代わりに使われていたようだ。日露戦争時の旅順要塞では、弾薬ではなく1万箱ものウォッカが届き、司令官が降伏を決意したとの逸話が残る。
ウクライナ戦争を契機にアルコール問題は、再びロシアの社会不安と軍事力の弱体化を象徴する問題となった。専門家たちは、この状況が続けば、ロシアの「人的資本の長期的な劣化」を招く可能性があると警鐘を鳴らしている。
アルコール販売量18億リットル、史上最大を記録
ロシアの独立系メディアであるモスクワ・タイムズ紙によると、同国の小売アルコール販売量は2024年1月から10月までの間に18.4億リットルとなり、統計を開始した2017年以降で最高を記録した。2017年の同期間と比較して21%増えており、前年同期と比べても0.8%の増加となる。
ただし、この数字でさえ控えめなデータだとの指摘もある。酒販業界誌のドリンク・ビジネスは、ロシアにおける実際のアルコール消費量は、公式統計を約30%上回る可能性があると報じている。さらに同誌によると、ロシアのアルコール飲料市場の約60%をウォッカやコニャック、リキュールなど、度数の高い蒸留酒が占めているという。
強い酒ほどよく売れているようだ。ロシアの大手酒類メーカー、ラドガ社のベニアミン・グラバル社長は同誌の取材に対し、「2019年から2023年にかけて、当社のワインの出荷は45%の伸びにとどまっている一方、蒸留酒では売り上げが150%増加した」と語っている。