ロンドン・ビジネススクール 
教授 リンダ・グラットン氏

【グラットン】いえ、そうではありません。私は全世界の人々に向けてこの本を書きました。中国では北京語、広東語に翻訳されましたし、ロシア、ブラジル、インドでも広く読まれています。読者の数は先進国より新興国のほうが多いと思います。

ただ、試練という意味では、ご指摘のように、インドや中国の若者は自分たちの生活が親の世代よりよくなるのがわかっていますので、将来について楽観的です。しかし、イギリスや日本の若者は、逆に悲観的です。世界的に見ても、若者の失業が非常に深刻な問題となっています。私も参加してきたダボス会議(世界経済フォーラム)でも、その問題がまさに大きく取り上げられていました。

【伊賀】以前は高い教育を受ければ、失業せずにすみました。しかし、最近は日本でも、それ以外の国でもそうでもなくなっています。どう対処すればよいのでしょうか。

雇用規制が起業家育成を阻害する

【グラットン】若者の失業を減らすには大学と政府の取り組みが必要です。まずは大学が単なる学問の府から脱して、仕事につながる教育や訓練を提供しなければなりません。

次は政府ですが、やるべきことは2つあります。1つは規制緩和です。スペインが典型的ですが、労働市場が規制に守られ硬直的だと、いったん雇い入れた労働者を解雇できず、若者が新規採用されない。そうならないために、雇用規制を緩和する必要があります。もう1つはシグナリングといって、今後、どんな仕事の需要が増えそうか、という情報を若者に与えることです。ドイツやシンガポールでは政府がこれを熱心に行っていますが、イギリスは残念ながら怠っています。それもあってか、私の2人の息子のうち、1人は医者になりたいと医大に行き将来は安泰ですが、もう1人はジャーナリスト志望で、大学で歴史を学んで卒業したものの、今も仕事を探しています。