感性を磨くにはどうしたらいいのか。日本文化の魅力を発信しているブランドプロデューサーの梅澤さやかさんは「感性を磨くために、日常生活で使ってほしい“体の部位”がある。中でも日本のお稽古を通すと、さまざまな場面でセンスや創造性を育めるきっかけが得られる」という――。

※本稿は、梅澤さやか『エグゼクティブはなぜ稽古をするのか』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。

感性を磨きたければ「手」を使おう

現代社会には、かつて当たり前だった香りを焚き、和歌を詠む文化的空間はもはや存在しません。たとえ形式的に似た場をつくり出したとしても、当時と同じ集いの場を再現することは不可能です。現代において同じようなことを再現したとしても、その感性を真に再現することはできないからです。

しかし、私たちの日常生活の中にも、自然への感性を磨く機会は残されています。その重要な手がかりとなるのが、「手を使うこと」なのです。日々の些細な動作の中に、昔の人々が培ってきた感性を取り戻すヒントが隠れているのかもしれません。

自然を深く理解し、その微妙な変化を感じ取るには、特別な実践があります。昔から伝わる決まった動きや手順(これを「所作」と呼びます)を行うのです。これらの所作を通じて、五感だけでなく、体全体の感覚を駆使して情報を受容し、理解を深めていくことができます。この過程において、「手」は極めて重要な役割を担っています。

ボールペンで手帳に書き込む手元
写真=iStock.com/FreshSplash
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手を使うことで、認知機能が向上する

手を使うことには、科学的に裏付けられた多くの利点があります。

手には、数百本の末梢神経が集中しています。たとえば、目を閉じていても、ポケットのなかの小銭の形や大きさを触っただけで、その額を判別できることがあります。これは、手にある沢山の神経のおかげなのです。

手や指先を使うと、脳に多くの信号が送られ、神経活動が活性化します。料理の際にさまざまな食材を触り、その質感や新鮮さを判断するとき、私たちは無意識のうちに手の感覚を使って脳を刺激しています。

このような日常的な行為から、「むすんでひらいて」のような単純な手遊び、さらにはピアノなどの楽器演奏といった複雑な指の動きまで、手を使うあらゆる活動が認知機能を向上させることは、科学的にも広く認められています。

だからこそ、手は単なる身体の一部ではなく、脳と直接つながる重要な「情報センター」なのです。

手を意識的に使うことで、まず脳の健康が維持されます。健康な脳は、より効率的に情報を処理し、学習能力を高めます。これが認知機能の向上につながります。認知機能が向上すると、私たちは周囲の環境をより鋭敏に捉え、微細な変化やニュアンスにも気づきやすくなります。

茶碗を手に取るとき、その温かさや質感、重さなどを、より繊細に感じ取れるようになるかもしれません。あるいは、庭の植物に触れる際、葉の微妙な質感の違いや湿り気まで感じ取れるようになるかもしれません。このように、脳の健康維持と認知機能の向上が、私たちの感覚をより豊かにし、世界をより深く、多面的に体験することを可能にするのです。つまり、手を使うことから始まる一連の過程は、感覚の豊かさを大きく増進させることにつながります。