右手に巻かれた包帯

それから翌月の3月8日に逮捕されるまで、鈴木はXさんの経営する土建会社で、土木作業員として働いていたのだ。彼が逮捕され、Xさんが鈴木と一緒に働いていた従業員に、なにか不審な点はなかったか尋ねたところ、仕事ぶりは真面目で、とくに怪しいところはなかったとのことだった。

取材でこの街を歩くと、鈴木の痕跡が至るところに残されていた。

「それこそ事件を起こしよる間だとか、その後も店に来てたんですよ。2週間に1回のこともあれば、2日連続ということもあった。でも様子は普通なんです」

そう語るのは、別のスナックのYママである。鈴木は20歳前後からこの界隈に出没し始め、同店の常連だったという。

「他の常連さんから聞いたんですけどね、年末、それこそ12月末に、彼が北九州で事件を起こしたことがあったやないですか。その日の犯行の後に、散髪に行っとるんですよ。手をケガして包帯を巻いとったらしくて、店の人から『どうしたと?』って聞かれたとき、『人の車を持ち上げて、助けちゃりよった』と話していたそうです」

これは2番目の、北九州市のBさんが被害に遭った事件のことだ。鈴木は包丁でBさんをめった刺しにした際に自身の手を切っており、後の裁判での検察側冒頭陳述においても〈被告人(鈴木)は、本件包丁に付着した血痕で手が滑り、自らの右人差し指を切ってしまった〉とある。

見慣れない携帯電話の正体

この店では鈴木が、3番目の事件の被害者であるCさんから奪った携帯電話を使っている姿が、目撃されていた。

「(Cさんの)事件の後、店で彼が見慣れない携帯をいじりよったんで、それを見て『2台持っとうと?』と聞いた憶えがあります。どう答えたかは記憶してないんやけど、それが被害者から奪った携帯やったみたいで……。複雑な気持ちになりますね」

鈴木が逮捕された際、彼はCさんの携帯電話を使って、アダルトサイトにアクセスしていたことが判明している。その理由は接続料金を節約するため。彼は犯行時のみならず、強奪した物品に関しても被害者を蹂躙していたのだ。

夜の繁華街でスマホを使用している男性の手元
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鈴木が20代から常連だったという、もう一軒のスナックのZママは、取材する私に呆れ顔で言い切る。

「鈴木の印象はとにかく性欲が強いということ。どこどこの店に行って(性行為を)したんやけど、どうやったとか、そういう話ばかりしてましたから。あと、『奥さんがさせてくれん』ともこぼしていました。

事件を起こす1、2年前からうちの女の子にご執心で、おみやげを持ってきたり、その子がつくとフルーツ盛りを頼んだりしていたんですね。それで一度、鈴木が彼女におみやげとして持ってきた焼き鳥を、他のお客さんにも振る舞ったことがあるんです。その途端にふて腐れてしまい、慌てて私がとりなした記憶があります」