玉村豊男氏によれば、分に応じた、背伸びをしない暮らしぶりがヨーロッパの人たちには染み付いている。庶民の消費生活は日本人と比べ総じて質素だ。
ところが、不思議なことに、そんな彼らが夏場には数週間にわたる長い休みをとりバカンスに出かけるのだ。富裕層はもちろん、労働者階級も、結婚したてのお金のないカップルも例外ではない。
玉村氏が、さも愉快そうにこう話す。
「お金のある人は高級リゾートへ行きますが、お金がなければ、田舎の親戚の家に転がり込みます。パリの中流以上の人たちは車で1時間くらいの郊外に『週末住宅』を借りるか所有していて、バカンスにかぎらず休日はそこで過ごします。何をしているかというと、単に『生活している』だけ。自分たちで料理をつくって食事をして、本を読んで、話をする。そういうことを楽しむのです」
なぜ、そんなことをするのだろうか。
「ウイークデーの間は仕事に時間をとられるので、手の込んだ料理を食べることもできません。それを彼らは『仕事』が『生活』の邪魔をしていると考えます。だから週末やバカンスを利用して『生活』を取り戻そうとしているのです」
フランスではいかなるときも「生活」は「仕事」に優先するという。ラテン系らしい話ではあるが、実をいうと北欧フィンランドでも事情は同じである。
近年、国際競争力ランキングで1位をとるなど「勤勉」のイメージが強まっているフィンランド。『フィンランド 豊かさのメソッド』という著書を持つ堀内都喜子さんが説明してくれた。
「フィンランド人も長いバカンスをとりますよ。だいたい4~6週間。だから7月になると、経済活動は停滞します。取引先に電話をしても『担当者は来月までお休みをいただいております』(笑)。それでもいい、というコンセンサスが社会にあるのです。夏休み中は学生アルバイトが社員の穴を埋めます。フィンランドでは学生のインターンシップを奨励しているので、中学生くらいから働かせます。夏場になると、たとえばレストランなどサービス業の現場は一斉にアルバイトだらけになりますね」
フィンランドでもバカンスの行き先は郊外の別荘だ。お国柄を映して、サウナつきのコテージを持つ人が多いという。
「でも、案外質素で、電気や水道がきていないということも珍しくありません。フィンランド人は日曜大工が得意ですから、バカンスの前になると『今年はコテージで水まわりの改修工事をやるんだ』と張り切っていたりするんです(笑)」
1945年、東京都生まれ。東京大学仏文科卒業。在学中にパリ大学言語学研究所に留学。『パリ 旅の雑学ノート』など著書多数。長野県東御市で経営するヴィラデスト ガーデンファーム アンド ワイナリーは絶景が楽しめる人気店。
1974年、長野県生まれ。大学卒業後、日本語教師などを経てフィンランドのユヴァスキュラ大学大学院に留学。帰国後は都内のフィンランド系企業に勤務する一方、ライターとしても活躍。著書『フィンランド 豊かさのメソッド』。