どうやらヨーロッパ人にとっては、仕事よりも家族とのごく普通の暮らしのほうが大切なのだ。

堀内都喜子さんによれば、人間関係が比較的ドライで、ラテン系の人から「冷たい奴ら」といわれるフィンランドの人々も、夕食時や週末は当たり前のように家族と一緒に過ごすという。

「フィンランド人は、オンとオフの切り替えがはっきりしています。就業時間は仕事に集中しますが、仕事が引けたらまっすぐに家へ帰り、5時ごろには夕食をとります。そのあと、オープンカレッジで勉強したり、地域の活動に参加したりするのです」

一般にフィンランド企業の勤務時間は朝8時から夕方4時15分まで。その間、30分から45分の昼休みと、10分から15分のコーヒーブレーク(2回)が認められている。そして残業はない。

実は堀内さんも都内のフィンランド企業に勤めている。終業後、港区のオフィスから編集部を訪ねてきてくれた。

「残業をするときは会社の特別な許可が必要です。東京のオフィスは別ですが、フィンランドの事業所では4時15分をまわると一斉に帰り支度をします。それなのに6時になっても帰りつかないとしたら、その人は間違いなく『悪いお父さん』。家族に見捨てられます(笑)」

まるで冗談のようだが、この「常識」はフィンランドだけのものではない。玉村豊男氏がいう。

「フランスの男たちも7時までには家に帰ります。そして料理を手伝ってから家族で食卓を囲む。これがマストです。イタリア出身のパンツェッタ・ジローラモさんがこぼしていました。『日本のサラリーマンはうらやましい。夕食までに帰れなくても電話1本しなくていいなんて。イタリア人がそんなことをしたら、1回で大ゲンカ、2回で離婚ですよ……』」

なぜ彼らは、自らに窮屈なルールを課しているのだろうか。

玉村氏によれば、ヨーロッパ人の少々わざとらしい家族志向は、「個人主義が行き着いた果てに再発見されたもの」。つまり、こういうことだ。

「ヨーロッパでは200年くらい前に個人がばらばらに食事をするようになりましたが、ふと気づくと、やはり集まってパンを食べたほうがおいしいんです。彼らには、いったん崩れた『家族』をもう1回組み立てるという意識があると思います。だから、無理をしてでも家に帰ってきて一緒に食べているんですよ」

1度解体の危機に瀕しただけに、ヨーロッパ人は家族の絆の壊れやすさを熟知している。そう考えると、わが身を振り返ってみたくもなるのである。

フリーライター・通訳 堀内都喜子
1974年、長野県生まれ。大学卒業後、日本語教師などを経てフィンランドのユヴァスキュラ大学大学院に留学。帰国後は都内のフィンランド系企業に勤務する一方、ライターとしても活躍。著書『フィンランド 豊かさのメソッド』。
エッセイスト・画家 玉村豊男
1945年、東京都生まれ。東京大学仏文科卒業。在学中にパリ大学言語学研究所に留学。『パリ 旅の雑学ノート』など著書多数。長野県東御市で経営するヴィラデスト ガーデンファーム アンド ワイナリーは絶景が楽しめる人気店。
(芳地博之=撮影)
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