予選が始まると、自分たちを「害悪」と言いヒール役に

「M-1」の予選が始まると、くるまは自分たちを「害悪」と位置づけて、ヒールキャラに転身した。すでに優勝しているのに再び出場することで、普通ならほかの芸人やそのファンから敵視されてもおかしくはない。だが、そこでくるまはあえて悪者になりきって、そのキャラを演じることで、対立の構図そのものを鮮やかに笑い飛ばし、お笑いファンからも好意的に見られるようになった。

「テレビで売れるために『M-1』に出ている人」であれば、優勝してテレビに出まくっていると、「もう『M-1』には出なくていいでしょう」と思われてしまうかもしれない。だが、テレビに出ないと宣言していて、地道に漫才を続けてきた令和ロマンは、そのように反感を抱かれることもなかった。

令和ロマンは今年も厳しい予選を勝ち抜き、決勝に駒を進めた。ファイナリスト発表会見の席でも、コメントを求められたくるまは「すべての子羊漫才師を檻に帰す。ただそれだけですね」と語った。

決勝では、100分の1の確率で2年連続トップバッターに

そして決勝当日。20回目の記念すべき大会を祝福するかのように、気まぐれな笑いの神はとんでもないイタズラを仕掛けた。柔道の阿部一二三選手がくじを引き、選ばれた一番手は、なんと令和ロマン。昨年の大会に引き続き、最初に舞台に上がるというスーパーサプライズ。100分の1の確率で2年連続トップバッターとなった令和ロマンは、奇跡に沸き返る観客の前に降臨した。漫才の冒頭でくるまは「終わらせよう」(終わらせましょうという意味)と挑発的な言葉を放った。

漫才のテーマは「名前」。くるまが、自分の子どもには学校の教室で有利な席に座らせたいので、名簿順で最後の方になる「渡辺」という名前を付けたいという一風変わった主張を展開していく。誰もが共感できる身近なテーマを扱いながら、話題を深く掘り下げていくことで笑いを生み出していった。観客のボルテージが最高潮に達している中で、令和ロマンも最高のパフォーマンスを見せた。

審査員の評価も軒並み高かった。通常、1組目の芸人には様子見でやや低めに点数をつける傾向があるのだが、審査員がそのような配慮をしているとは思えないほど点数は高かった(合計850点)。トップバッターという不利な順番で見事な漫才を披露したことに対して、審査員が高い評価を与えていたように見えた。