今年で20回目となる「M-1グランプリ」(ABCテレビ・テレビ朝日系)が12月22日に放送される。なぜM-1はこれほどまでに注目される番組になったのか。社会学者の太田省一さんは「漫才の内容はもちろん、テレビ番組としての面白さがある」という――。

なぜM-1は年末の国民的行事になったのか

「年末の国民的行事」と聞いて『M-1グランプリ』を思い浮かべるひとも少なくないだろう。同じ『NHK紅白歌合戦』が近年視聴率的に苦戦する一方で、いまや年末恒例の一大イベントとしてすっかり定着した感がある。その理由はどこにあるのか? ここではオードリーが一躍ブレークした2008年にそのヒントを見つけたい。

NTTドコモが運営するウェブサイト「プレイ!PRIME」のイベントに出席したお笑いコンビのオードリー(左が若林正恭さん、右が春日俊彰さん)=2009年8月3日、東京都港区
写真=時事通信フォト
NTTドコモが運営するウェブサイト「プレイ!PRIME」のイベントに出席したお笑いコンビのオードリー(左が若林正恭さん、右が春日俊彰さん)=2009年8月3日、東京都港区

2001年から始まった『M-1グランプリ』も、5年の中断期間をはさみつつ今年が記念すべき20回目。毎年世間の関心を広く集めるものになっている。2020年に優勝したマヂカルラブリーのネタをめぐって起こった「これは漫才か」論争など、まだ記憶に新しい。

では、「印象的だった年は?」と聞かれたら、あなたはどう答えるだろうか? 多くのひとは、「笑い飯が悲願の優勝を達成した2010年」や「ミルクボーイが史上最高得点を獲得して優勝した2019年」のように、特定の芸人の名前をあげて答えるのではなかろうか。

もちろん、紛れもなく芸人は主役である。だが、それだけでは説明がつかない部分もある。

たとえば、『NHK紅白歌合戦』は、かつてなぜ70%や80%を超える驚異的な視聴率をあげることができたのか? その理由は、特定のヒット曲や特定の歌手の人気だけではないだろう。男女対抗形式が生み出す特別な熱気、応援合戦やゲストなど豪華なショー的楽しさ、さらには大晦日ならではの高揚感といった要因もあったはずだ。

歴代最高視聴率を記録した年

つまり、そこにはテレビ番組としての面白さがあった。それは、『M-1グランプリ』も同じ。そういうわけで、ここではM-1を単なる漫才コンテストとしてだけでなく、ひとつのテレビ番組として、その魅力の本質を探ってみたい。

そこで注目したいのが、2008年である。

M-1の視聴率は、例年関東よりも関西のほうが高い。令和ロマンが優勝した2023年は、関東が21.4%、関西が28.0%(いずれも世帯視聴率。ビデオリサーチ調べ。以下同じ)だった。元々M-1が吉本興業のプロジェクトとして始まったこと、関西では漫才の人気が格別に高いことなどもあるのだろう。

では歴代最高視聴率はどの年かというと、実は関東、関西ともに2008年になる。関東が23.7%、関西が35.0%を記録。この年の優勝はNON STYLE、最終決戦進出の残り2組がオードリーとナイツだった。