武道だからといって暴力は許されない
日本スポーツ協会(JSPO)の調査によると、暴言や暴力、ハラスメント、差別などの不適切な行為の相談は年々増加し、昨年度485件と過去最高を更新した。被害の内訳は小学生42%、中学生12%、高校生が13%と、約7割が未成年という状況だ。
明らかに不適切だとわかる暴力行為より、判断するのがより難しい暴言やハラスメントに関する相談が多くなっているという。
私自身も、25年以上の剣道人生において何度も小学生に対するスポーツハラスメント(通称スポハラ)を目撃した。武道である以上、ある程度の厳しさは仕方のないものだとは思うが、防具で守られてない箇所を執拗に竹刀で叩く、太鼓のバチで横っ面を殴る、坊主の強要、小さな子どもを突き飛ばして、その子が後頭部を床に打ちつけられる……など明らかに度を越した不適切行為も見受けられる。
剣道の海外競技人口は年々増加し、その精神性に魅力を感じる外国人も少なくない。しかし、国内に目を向けると少子化や地域移行の影響などから人口は減少。そしてここ数年はスポハラが大きく問題視されている。
本記事では、筆者の体験談も基に、大阪体育大学スポーツ科学部の土屋裕睦教授(スポーツ心理学)の意見を伺い、なぜスポハラが起こるのか、子ども・親・指導者自身にどのような悪影響を及ぼすのか、そしてその解決策について考えてみたい。
「スポーツ史上最大の危機」から10年
2013年は、大阪市立高校で起きたバスケ部顧問の暴力による部員の自死、柔道女子ナショナルチームにおける暴力問題、部活動やスポーツ少年団での指導者の暴力問題が露呈するなど、スポーツ界における暴力・体罰が社会的に大きな注目を集めた年だった。
下村博文・元文部科学大臣は「スポーツ指導における暴力根絶へ向けて」と題したメッセージを発信し「今般の事態を日本のスポーツ史上最大の危機」と表現、「スポーツは、スポーツ基本法にうたわれているとおり、心身の健全な発達、健康及び体力の保持増進、精神の涵養などのために行われるものであり、世界共通の人類の文化であって、暴力とは相いれません」と強調した。
2013年4月25日には「スポーツにおける暴力行為根絶宣言」がなされている。しかし、10年の時を経ても暴力・暴言・ハラスメントなど不適切行為は後を絶たない。