励まし役、叱り役の連携プレー

商品を開発していた1年間、ズブの素人同然だった石橋は、斬新さやフレッシュさで新しいアイデアを出していったが、それが空回りして「てんやわんや状態」となってしまうこともあった。それを技術面から冷静にサポートし、励ましたのが辰野であり、あえて1歩引いたところに立って「叱り役」に回ったのが久保だったという。それぞれが、それぞれの持ち場で自分の役割を認識し、連絡を密に取り合ったからこそ、多くの人々に誤解なく情報を伝達できたということなのだろう。

取材終了の間際、石橋に思い出深いエピソードがあるかとたずねてみたところ、彼女ははにかみながら、こんな話を披露してくれた。

「商談が難航してガックリしていたとき、辰野さんの顔が思い浮かんだんです。夜遅い時間に『こんなんじゃ売れないってまた言われちゃいました~』っていう涙マーク入りのメールを送ったところ、即座に返信がきて、たくさん励ましの言葉が書いてあったんです。今まで一緒にがんばってきた仲間だからこそ、苦労がわかり合えるなと思って……。そんなときは、あえて電話はしないんです。そのメール、今でも大事に取ってあるんですよ。また次に落ち込んだことがあったら見返そうと思って」

これもまた、信頼し合う者同士だからこその、1つの報・連・相の形なのかもしれない。

3人を中心に取り組んだポケットドルツは、発売から10カ月後の11年1月末までに、当初の年間販売目標である50万台を大きく上回る、150万台の販売を達成した。10年秋に2代目となるルージュカラー5色を追加発売。11年4月には商品をリニューアルし、新たに充電式電池も使えるグラデーションカラーの全7色を発売するなど、顧客を飽きさせない怒涛の攻めが続いている。

台風娘を中心としたポケドル開発チームの快進撃は、ますますパワーアップしそうな勢いだ。

(文中敬称略)

※すべて雑誌掲載当時

(澁谷高晴=撮影)
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