女子社員が歓声を上げた

秋になり、ようやく試作品が出来上がってきたのを見て、3人は驚いた。試作品を使ってみた女子社員たちから「うわぁ、かわいい。これ欲しい」という声が続々と上がったのだ。

考えてみれば、従来品を使用したことがない女子社員たちにとっては、スペックダウンなど関係なく、その性能で十分だったのだ。その姿を見た開発担当者たちもようやく「あれ? これはいけるんちゃうか」と手応えを感じてくれたという。3人は手に手を取り合って喜んだ。

年末になり、「ポケットドルツ」の情報リリースを開始した。

通常、新商品のリリースは発売の1カ月ぐらい前から始めるが、それより3カ月も早い、4カ月前に始めた。従来はなかったコンセプトの商品なので、販路拡大のために早めに仕掛けた。それまで電動歯ブラシをほとんど置いていないホームセンターやドラッグストア、スーパーマーケットなどにも商品を置いてもらうため、付き合いのないバイヤーに1から営業しなければならなかったからだ。

営業担当者がそれぞれの営業先でコンセプトを説明して歩いた結果、家電量販店では、オーラルケア商品売り場だけでなく、美容家電コーナーにも置いてもらえたり、ホームセンターでは歯ブラシ売り場に加えて、お弁当箱コーナーなどにもディスプレーしてもらえることになった。

マスコミにも早めにリリースを出した。ただの商品宣伝ではなく「OLのランチ磨き」という文化を創り出すという点を理解してもらうには、時間をかけて丁寧なコミュニケーションをとる必要があると感じたからだ。

「伸び悩んでいる業界で、高機能よりも文化を売りにするというのは大きな賭けでしたが、1つ1つ、ちゃぶ台返しのように発想の転換を図っていった結果、女性たちから支持される商品が完成した。こうなったのもチームワークのおかげだと思います」と石橋はしみじみ振り返る。