描いたイメージをどう伝えるか

「やっぱり会ってみなければわからない」と全員が痛感したのは商品の色を決めるときだ。商品のイメージを決定づける色は重要なファクターだが、同じピンク色といえども、その種類は千差万別で、自分がイメージした色を口頭で的確に他人に伝えるのは至難の業だ。

そこで辰野は様々な色見本を用意し、石橋や久保らの目の前に広げてみせた。

「まるで24色のクレヨンみたいにきれいな色がずらっと並んでいて、それを見ながら『これよりもっと濃いめ』と言ったり、身近にある商品のラベルを指して『こんな感じの色』と示したり、言葉だけに頼らずに説明するようにしました。そうすることでお互いに視覚で確認しながらイメージを共有することができました」(石橋)

紙の色見本ではなく、実際に使う素材に着色されたサンプルを見ながら、チームおよび関係者が納得するまで、色やツヤ感の微調整を重ねた。

シンプルな黒とシルバーの定番2色は決定していたが、それだけでは華々しい“デビュー感”がなく、従来品と代わり映えしない。残りのカラーバリエーションをいかに美しく女性の目を引く色にするか。量販店でディスプレーしたときにカラフルな色を並べて面展開し、化粧品のように女性にアピールすることをすでに宣伝担当者と相談していただけに妥協はできなかった。

辰野は会議で揉んだ内容を持ち帰って、開発担当と実現可能かどうかを相談した。石橋も部内にいる15人ほどの20~30代の女性のデスクまで行っては「この色、どう思う?」などと意見を聞いて歩いた。

それでも、次回の打ち合わせのときに出来上がってきた色見本を見て、石橋が「想像と、ちょっと違う」ということがあった。紙の上では出せても、素材に着色してみると、製造側が技術的に出し切れない色もあった。ダメ出しをされた他の開発担当からは「そこまでこだわるのか」と難色を示されることもあったが、そんなときには石橋が出向いていき、辰野に代わって説明することもあった。逆もしかりで、石橋がマーケティングチームに説明しきれないことがあったときには、辰野が技術の説明をするなど、お互いがチームをひとつにまとめられるように援護射撃するようにした。