「農家の嫁」になって気がついたこと

ラーメン業界では「背脂チャッチャ系」(豚の背脂をスープに浮かべたコクのあるラーメン)も人気だが、スープを飲んでも健康的な味を追求した結果、利用客の支持を得た。

「その後のコロナ禍で消費者の方の健康意識が高まった。結果としてですが、そうした世間の流れにうまく乗ることができました」

そんな池野谷社長は、昔から食材への意識が高かったわけではない。

「社長就任を機に、夫の実家の隣に自宅を建てたんです。夫の実家が兼業農家だったので、私は『農家の嫁』になった。これが大きな変化です。毎日採れたての旬の野菜を食すうちに、一見同じように見える野菜の味の違いがわかるようになったのです」

夫の池野谷高志氏(取締役副社長)は仕入れ部門を管理するが、前職は銀行員。妻の社長就任を機に銀行を退職して、ぎょうざの満洲に入社したという。

「当時、経営者として自分だけでやるのは不安で、夫に『一緒にやってくれない?』と相談したら『いいよ』と言ってくれた。一人っ子だった夫を家業に招いた代わりに、私が義父母のそばに住み、休日には農作業を手伝うようになったのです」

こんなおいしい野菜を一人で味わっているのはもったいないと、ぎょうざの満洲でも出したいと考え始めた。

創業者の大病、自身の健康診断結果とともに、農業経験も「健康メニュー」に結実したのだ。

季節限定のなすのみそ炒め。こうした旬の野菜を使ったメニューも増えた
撮影=島崎信一
季節限定のなすのみそ炒め。こうした旬の野菜を使ったメニューも増えた

飲食チェーンであり食品製造業でもある

もともとぎょうざの満洲は、生産者との交流に熱心な会社だ。農作物の委託生産は1998年頃から始めており、秋田県の米作農家とも意見交換をしてきた。現在、コメは秋田、岩手、山形、埼玉の農家から仕入れ、豚肉は青森県産「美保野ポーク」を使っている。

2014年には埼玉県鶴ヶ島市の農地を借り受け、株式会社満洲ファームを設立。本格的な農業生産に乗り出した。社員2名が長野県の農場で修行した上で開園し、キャベツの生産をスタート(農場責任者は高志氏)。10年たった現在、順調に稼働している。

「今は鶴ヶ島と坂戸で9町歩ちょうぶ(1町歩は約9917.36m2)、東京ドーム約2個分の畑に拡大しました。餃子で使うキャベツの約3割は満洲ファームでつくっています」

ぎょうざの満洲は飲食チェーンと食品製造業の二面性を持つのだ。