中国人から見ると「日本人は集団行動が好き」

鄒さんによると、受験や大学の単位を取得するために日本語は勉強するものの、実際には授業以外で日本語を話す機会はほとんどない。

「日本人は集団行動が好き。いわゆる『飲みサー』に参加しないと友だちはできない。お酒はあまり好きではないので、どうしても同胞と話をすることのほうが多いですね。日本語のインプットはあるけどアウトプットする機会が本当にない。それでも、日本語を話さなくても生活できてしまうのが不思議ですね」

鄒さんは東京・市ヶ谷に本校を構え、高田馬場にも実習室がある「唯新学院」という中国人のための進学予備校で日本語教師のアルバイトをしている。学校の創立者も、運営スタッフも、学生も全て中国人だ。学校の壁には、今年合格した日本の有名国立、私立の名前がズラリと張り出されている。

「中国だったら暴動が起きる」

代表は来日8年目の史昊さん(29)。中国でも有数の超エリート。米国の一流大学に留学している時、ニュースで東日本大震災を知り、その時の日本人の行動に感銘を受けたことが、来日するきっかけだったと語る。

「中国だったら暴動が起きる状況でも、日本人は沈着冷静で秩序を保っていました。その姿を見た時に日本に行きたいと思い、米国の大学を中退。慶應義塾大学の在学中に、中国人向けの日本語予備校を起業したのです」

儲けを優先するならば、日本ではなく米国でも母国でもいい。それでも鄒さんのように、日本の良好な治安やカルチャーなどソフト面に惹かれる中国人は多い。

現在、唯新学院には、およそ2000人の留学生が在籍している。鄒さんにとって、この予備校はバイト先である以上に、同じ境遇の先輩、後輩に囲まれ、母国語で自由に会話ができる貴重な場所だ。

折しも、民主化を求める人々が香港の中心地を占拠し、大規模なデモを繰り返すニュースが、連日、報道を騒がせていた。

中原一歩『寄せ場のグルメ』(潮出版社)
中原一歩『寄せ場のグルメ』(潮出版社)

中国では日常の生活と政治はかけ離れていて、家族や友人の間でも、政治のことを話す機会はほとんどない。それに、日本と中国では歴史教育の内容が全く異なり、日本と中国の火種にもなっていることを、鄒さんは理解していた。

「年配の男性に突然、道端でぶつかられたことはありました。中国語で友人と話していたときのことです。歴史や政治をめぐって、日本で嫌な思いをしたことはありません。ただ、日本は自由なのに、中国以上に政治に無関心な若者が多い。むしろ、そのことに驚きました」

魯さんも、鄒さんも、普段は自炊が多いという。それでも、故郷の味が恋しくなると駅前の食堂に行く。

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