超知性で人々を幸せに

超知性と共存する300年後、人間の平均寿命は200歳になるでしょう。その頃にはDNA治療が発達し、人工臓器が一般的になっていると思います。人間は、調子の悪いパーツを次々に入れ替えることで長生きするのです。脳型コンピュータとも、直接体を通じて通信する時代になっているでしょう。チップとチップが無線で通信し合い、異なる言語を話す人同士も自動翻訳で話せるようになるのです。犬と話せる時代も来るかもしれない。そうなると、ソフトバンクは携帯電話会社ではなく、テレパシー会社といえるかもしれませんね。脳型コンピュータ搭載のロボットができれば、地震などの災害救助も簡単で確実です。お医者さんもいなくなって、手術も愛や優しさを持ったロボットがするようになるかもしれません。私はSF映画の監督でも小説家でもない。ソフトバンクを興した事業家として、人々の幸せのために脳型コンピュータを広めていきたいと思います。

急に現実的ですが、皆さんも見ることができる、30年後の話をしましょう。30年後、コンピュータチップのトランジスタの数は、人間の脳をはるかに追い越して100万倍になります。今現在の100万倍のメモリ容量があり、300万倍の通信速度が可能になるでしょう。その頃にはきっと「iPhone 34」が出ていますね。すると、3万円くらいのiPhoneに5000億曲入って、3億5000年分の新聞も入ってしまうという計算に。スピードだって、現在の比ではありません。1秒間に世界中で発行されている新聞・雑誌・書籍がダウンロードできてしまう。

そんな時代にソフトバンクが提供したいのは、やっぱり幸せなんです。30年後も300年後も変わらず、情報革命で世界中の人々を幸せにすること。自立していて、分散型で、強調し合うことのできる世界中の優れた企業と、戦略的シナジーグループをつくります。孫正義が発明したのはチップでもソフトでもハードでもなく、300年成長し続ける組織構造だといわれるようになりたい。「ソフトバンクはただの投資会社じゃないか」という非難を受けることもありますが、私は「いずれあなたたちも私のやり方を理解するときがくるでしょう。300年以内には」と腹の中で思っていますよ(笑)。

でも、どんなにテクノロジーが進んでも、人間は全部をコンピュータ任せにはしないでしょうね。自分の愛を一番に求めて、愛のために身を捧げて、愛に傷ついて。300年後もやっぱり「愛ってなんだろう。愛って難しい」とつぶやいてるんじゃないかと思いますよ。

※2010年6月25日に発表されたソフトバンク「新30年ビジョン」の要旨です。一部発言の順序を入れ替えた部分があります(写真と本文は関係ありません)。

ソフトバンク社長 孫正義
1957年、佐賀県生まれ。81年に日本ソフトバンクを創業。2001年のヤフーBB立ち上げ、06年のボーダフォン日本法人買収。「これまでの僕の人生の中でもっとも大切なスピーチ」と話す「新30年ビジョン」全編を収録した書籍を刊行。
(編集協力=大高志帆 撮影=小倉和徳)
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