父が吐血して入院したのは、私が高校生のときでした。母は身を粉にして働き、1歳年上の兄も高校を中退して家計を支えました。なんとか這い上がらなきゃいけない、と思った私は、アメリカに渡ることに決めました。家族中、親戚中、学校中に冷たいヤツだと止められましたが、迷いはなかった。必ず事業家になるタネを見つけて、長い目で見れば家族を支える存在になろうと心に決めていたからです。立派な事業家になることで、自分と同じように国籍や人種で悩んでいる人に、人間は一緒だと証明してやろうと誓ったんです。そう決意をしてから、祖母に謝りました。そして、渡米する前に先祖の国・韓国をふたりでまわりました。行ってみたら本当に小さな村で、電気もきていないような場所でしたよ。痩せ細った土地だから、採れるリンゴだって小さいんです。暗いロウソクの灯りの中で夕食を食べたことを覚えています。祖母は日本からツギハギだらけの服をたくさん持っていって、村で配っていました。そんなボロボロのお土産なのに、村の人たちは満面の笑みで喜んでくれた。祖母もすごく嬉しそうでした。私自身、事業を興して2年で大病を患ったのですが、そのとき改めて思い出しましたね。大切なのは、お金でも地位でも名誉でもない。何も持っていなくても、ボロボロの服だって喜んでもらえる。そういうことに貢献することこそが本当の幸せなんだって。
そこで今回は、今後世界中の人々を幸せにしていくソフトバンクの「新30年ビジョン」についてお話ししたいと思います。私の現役時代最後、30年に1回の大ぼらです。
「新30年ビジョン」をつくるにあたっては、2万人の社員全員が意見を出しました。ツイッターのユーザーからもいろんな意見をもらいました。ソフトバンクの願いは世界中の人々の幸せです。だから、ツイッターでは幸せや悲しみについて意見をもらいました。まず、「人生で最も悲しいことはなんでしょうか」とツイートしたところ、1日で2500を超える意見が集まりました。21%の人は身近な人の死だと答え、14%の人が孤独、11%の人が絶望だと答えました。裏切りや、何も感じなくなることだと答えた人もいました。表現の違いはありますが、一番の悲しみを一言で表現すると、結局は「孤独」ということになるんじゃないでしょうか。逆に「人生で最も幸せなことはなんでしょうか」とツイートしたところ、生きているだけで幸せだという人もいれば、達成感、自己実現、愛すること、愛されること……幸せは千差万別ですが、一言で表現すると「感動」ということになるかもしれません。私たちは情報革命で悲しみを減らし、感動の輪を広げて、喜びを大きくしていきたい。