ソフトバンクは創業30周年ですが、苦難の連続でした。ブロードバンドを開始したときは一瞬で3000億円もの累積赤字を出してしまった。株主総会に出ても、理屈はいいから株価を上げろと言われたし、ある老婦人からは「主人の遺産をすべてソフトバンクに投じた。信じているから何としても頑張れ」なんて言われたりして。涙が出ましたね。紆余曲折あって、赤字のどん底から這い上がって、ソフトバンクの2009年度の営業利益は、日本で3位のところまできました。でも、我々は30年後、世界の人々が最も必要とする企業になっていなくてはならない。最も愛される企業トップ10に入っていなくては。そう考えると、目指すは時価総額200兆円企業です。時価総額(2010年6月現在)が2兆5000億から7000億円の間だから……まだまだ歯を食いしばって頑張らなくちゃいけませんね。

人間の命はたかだか50~100年ですが、企業は私がいなくなった後も続いていきます。300年続くような企業カルチャー、組織の考え方、哲学、つまりソフトバンクグループのDNAを設計するのが私の役割だと思っています。そういう意味で、30年で一体どこまでやれるのかということの前に、大ぼらついでに今後300年のビジョンについても語っておこうと思います。

過去があって未来がある。300年先を見通す前に、300年前を見ておきましょう。たとえば300年前、一般庶民の平均寿命はたった33歳。貴族のようなお金持ちでも39歳でした。そしてちょうどこの頃、産業革命がはじまり、蒸気機関車がつくられました。製鉄法ができて、紡績や蒸気船、鉄道の開通。いわゆる文明開化です。機械ができたことによって、ライフスタイルは圧倒的に変わりました。機械が人間の職を奪う邪魔なものだとみなされ、ラッダイト運動が起きたりもしています。でも、結果的には機械によって人間は過酷な重労働から解放され、水道ができたことで衛生環境もよくなって、寿命が延びた。現在の私たちの幸福は、産業革命の賜物だと思います。