2011年4月3日、ソフトバンクは孫正義が東日本大震災の被災者への義援・支援金として、個人で100億円を寄付すると発表した。列島が驚愕した孫の行動原理が明らかに!
大震災直後、ソフトバンクには多くの不満が寄せられた。ツイッターをはじめとするインターネットはほとんど支障がなかったにもかかわらず、携帯電話は、メールも通話もつながりにくい状態がつづいた。「安否確認で話したい人と話せない」「肝心なときに電波がつながらない」「なんのための携帯なんだ」……。
「そういったお客さまからの“お叱りの声”を多数いただきました」と池田昌人(ソフトバンクモバイル・マーケティング統括)は話す。2010年度に携帯電話契約純増で12カ月連続で首位に立ったソフトバンク。絶好調の業績に影を落とすのが「電波問題」である。割り当てられた電波が技術的な面で不利なこともあり、電波の悪さが「定評」になりつつあったときに、震災が起き、ユーザーの不満が爆発してしまった。震災直後は、どのキャリアの携帯電話もつながりにくかっただけに、悔しい気持ちになった社員も多かっただろう。
そんな汚名を晴らすべく、東日本大震災直後からソフトバンクは被災者のために多くの取り組みを行ってきた。携帯電話の無料貸し出し、メール無料(期間限定)、経済的不安を払拭するための料金支払い延長、携帯電話から直接NPOに募金できるスキームの開始、などなど。孫正義も福島の被災地を訪れ、さまざまな支援策を発表するなど、自ら先頭に立って被災地支援を行った。「情報革命で人々を幸せに」というソフトバンクの経営理念からすれば、これらの支援は説得力があるように私は感じるが、「(震災を利用した)売名行為だ」「電波の不備をごまかそうとしている」「タダで製品を渡しても何年後かにカネを取る気だ」などの批判もネットで飛びかった。結果論で言えば、まだこれでは足りなかったのだ。
そんな最中、孫は100億円の義援金の拠出を表明した。さらに、ソフトバンクグループから13億円、引退するまでのグループ代表としての報酬全額(17億円弱の見込み)を寄付し、震災遺児らを支援するとした。被災者への慮りである寄付に金額の多寡は問題ではないとはいえ、100億の寄付に世間は仰天した。比べるまでもなく義援金日本一だ。
一説には、ファーストリテイリングの柳井正社長が10億円を拠出したことを踏まえ、20億円程度を当初は予定していたという。柳井が10億円の拠出を表明したときも大きなインパクトがあった。これが100億円となれば、日本国内、市場に与えたインパクトは計り知れない。メディアでも破格の扱いを受け、ネットやツイッターでは絶賛の嵐が渦巻いた。孫を批判しつづけていたジャーナリストでさえ賛辞を送ったくらいだ。(文中敬称略)