孫正義氏がこれまでに経験したタフな場面をケーススタディの形で完全再現。
あなたは正しい判断を下せるだろうか。

Q. 落ち目な会社を買収するタイミング

2006年3月、総額2兆円という世界トップクラスのM&A案件が舞い込んできた。しかし買収先のボーダフォンは、翌年には営業利益が赤字になりそうなボロボロの経営状態である。そこで選択。
A案は、携帯電話事業を一からスタートさせるために必要な膨大な時間とコストを省くため、リスクをとる。B案は、数年減収を続けている現状を踏まえ、値段が手頃になるのを待つ。
【A】利用者が減る前に買収【B】買収価格が下がるのを待って買収
(正答率50%)

 

孫 正義氏

買うか、買わないか。話は極めてシンプルですが、悩ましいのは対象の案件が減益事業だということです。しかも、買収には巨額の費用がかかるときている。

考え方は大きく分けて、やはり2つあります。1つは、ターゲットの会社は減益の真っ最中だけれど、その流れもじきに止まると読んで買収を決行する。2つ目は、まだまだ利益率は下がると見て、より低い額でないなら買収を見送るか。僕ならこうしたケースでは、100回のうち98回ぐらいは、低い額でないと買わない、と思います。ただ100回のうち2回ぐらいは、巨額を払って買収するかもしれません。減益はそこで止まる、あるいはそこから反転してV字に回復できるポテンシャルが残っている、と信じることができるならですけれども。

何の話かといえば、ボーダフォン・ジャパンです。ソフトバンクは06年3月、ボーダフォンを買収することにしました。かかった費用は、実に2兆円です。直前までのボーダフォンの営業利益は、02年約2300億円、03年約1800億円、04年約1600億円、05年約700億円と、加速度的な減益状態。NTTドコモやauに押され、このままでいくとあと1年で赤字転落してもおかしくない、という危うい状態です。

しかも、それから半年後には、同じ電話番号で携帯電話会社を移動できる番号ポータビリティ制度が始まろうとしている。減益傾向にある会社にとっては、この制度は不利に働くと見られました。それでも僕は勇気を出して買った(笑)。

「一言でいえば、時間を買ったということです」
僕は記者会見でこう発言しています。