利益が急回復した理由とは
改良すべきことは山ほどあり、そのひとつひとつに僕はテコ入れしていきました。「ボーダフォン」というブランド名もやめて「ソフトバンク」で勝負しました。これまで、自分たちの会社でありながら「ヤフー・ジャパン」「ヤフーBB」としていたけれど、この携帯電話事業では「ソフトバンク」でいく。
さあ、その結果はどうなったか。ソフトバンクが買収してからの営業利益をご覧にいれましょう。06年の約1300億円を皮切りに、07年約1600億円、08年約1900億円、09年約3400億円。どうです、ほとんどどん底だったものが、買収直後から跳ね上がったのです。
まず第一にユーザーの皆さんのおかげです。上戸彩さんと犬のCMが好感度ナンバーワンになったり、スマートフォンのiPhoneが圧倒的な人気を誇ったり。もちろん、それらの要素もありますが、それだけではありません。泥臭い話、やはり死にものぐるいで社員が努力した。
「(携帯電話事業展開の質問を受け)1年や2年で収益が改善できるほど簡単ではないと思いますが、10年たってもやれないような難しいテーマでもないのです」
「大きなことをするといつもこきおろされますが、数年で評価が変わるというのがパターンです」
携帯電話事業参入の記者会見で、僕は自分自身を鼓舞する意味も込めてこう語りましたが、実際その通り、評価を変えることができたと、今、自信を持っていえます。
一橋大院教授 GCAサヴィアン取締役 佐山展生氏が解説
孫さんは、ボーダフォンをLBO(レバレッジド・バイアウト)で巨額の資金を調達して買収した。地道に自社事業を育て上げるのでは間に合わないと判断したのだろう。買収以前の段階では業績は右肩下がりで、周囲は今後の見通しも厳しいと判断するだろうし、借入金が大幅に増え、金利負担も重くなる。この買収は、日本の大企業には到底実現が不可能であろう。取締役に相談し、メーンバンクに相談し、と合意形成をしていくうちに反対意見が多数を占めることが目に見えている。孫さんだからこそ、GOサインが出せたのだろうし、結果としてソフトバンクは一気に3大通信会社の一角を占めるようになった。
M&Aはタイミングがきわめて重要だ。ボーダフォンの業績が好調だったら、買収金額はさらに高くなっていただろう。みんなにとっての「いい会社」は、割高になるケースが多い。M&Aの成功率は50%といわれているが、実際には日本電産の永守重信社長をはじめとするM&Aのプロが多くの成功をしているだけで、ほとんどは失敗に終わる。
●正解【A】――2兆円という莫大な金額にひるむことなく、「まだ立て直せる」うちに手を打つ
※本記事は2010年9月29日に開催された「ソフトバンクアカデミア」での孫正義氏の特別講演をもとに構成されております。設問文等で一部補筆・改変したものがあります。