一流のビジネスパーソンの問題解決の指針

『実践版 孫子の兵法』鈴木博毅著(プレジデント社)

ビル・ゲイツ、松下幸之助、本田宗一郎、孫正義。過去の戦争史における将軍で有名な人物は武田信玄。筆者の推測ですが、大河ドラマで話題の軍師、黒田官兵衛も『孫子』を確実に読んでいたでしょう。さらにフランスの皇帝ナポレオンも『孫子』を読んでいたのではという伝説があるほど、この世界に大きな影響を与えた最強の兵法書『孫子』。

現代でも一流のリーダー、優れたビジネスパーソンは『孫子』を愛読していることが少なくありません。しかし疑問も残ります。約2500年前に書かれた『孫子』は、純粋に戦争に勝つための兵法書として世に出ました。現代の私たちは、敵を火攻めにしたり部隊を編成して軍事行動を指揮したりはしません。ならば一流の人物は、『孫子』からいったい何を吸収しているのか。答えはリスクと挑戦のバランス感覚にあるのです。

「戦争は国家の重大事であって、国民の生死、国家の存亡がかかっている。それゆえ、細心な検討を加えなければならない」

「最高の戦い方は、事前に敵の意図を見破ってこれを封じることである。これに次ぐのは、敵の同盟関係を分断して孤立させること。最低の策は、城攻めに訴えることである」(引用『孫子・呉子』守屋洋・守屋淳 プレジデント社より)

2つの引用を読むと、孫子がリスクを強く意識した思想を持つことがわかります。しかしリスクを怖がるだけで、何の行動も起こせなければ戦争には勝てませんし、ビジネスを前に進めて成功もできません。あらゆる挑戦と競争が、リスクを持つ存在であると理解しながら、あえて挑戦するならどうすべきか、まさにリーダーが決断すべき「前進」と「危機管理」をバランスよく行うための、極めて優れた指針が孫子には含まれているのです。