守りのスタンスになじまない性格

組織風土改革に長年携わってきた私から見て、〈挑戦文化〉優位への転換は容易なことではない。〈調整文化〉のエネルギーは強く、社内にかなり抵抗勢力があっただろうと想像する。

おそらく豊田会長は、若い頃から〈調整文化〉と〈挑戦文化〉の見極めができていたのだろう。社長に就任するとすぐに〈調整文化〉優位を壊して〈挑戦文化〉優位の会社に鍛えなおすことに取り組んでいた。ご本人が意図したかどうかは別として、創業家のカリスマ性が効いたことは間違いない。

ただし、圧倒的な業績向上を背景に、当時の豊田社長が絶対的な影響力をもつようになったと語るトヨタ関係者がいる。「豊田社長の権力はあまりに強大だ」といわれだしたのは危険信号だった。

会長に退いたのちには、“院政”を敷いていると話を捻じ曲げた記事も出てきた。絶対的な存在になったトップのもとで、忖度が横行することは想像にかたくない。まだ〈調整文化〉が強かった社長時代に、広報担当者がマスコミの取材者に「豊田社長にこんな質問はしないでほしい」と要望したという話も伝わっている。まさしく〈調整文化〉に染まりきった社員たちの忖度だ。

豊田会長に風当たりが強い理由の1つに、守りのスタンスになじまない性格の問題もある。思ったことをズケズケ言うのは、創業家のわがままなお坊ちゃんというより、〈調整文化〉を嫌う性格からきているのだろう。誤解を招きやすい点だ。

例えば、今年7月に豊田会長は、報道陣に認証不正問題への不満を示し、自動車メーカーが「日本から出ていけば、大変になる。ただ、今の日本はがんばろうという気になれない」「“ジャパンラブ”の私が日本脱出を考えているのは本当に危ない」と語ったという。揚げ足を取られやすく、本音が垣間見える発言はバッシングを招きやすいのだ。

トップの存在が大きすぎると忖度系の役員や社員が増える

会長の存在が大きくなるにしたがって、社内の民主主義が危機に陥る可能性は高い。実際にはワンマンでないとしても、「会長がすべて決める」と誰からも見られてしまうのだ。本人の意思とは関係なく、トップにおもねる忖度系の役員や社員は出てくる。〈調整文化〉への逆行であり、〈挑戦文化〉を望む人たちは不満を抱えるようになる。諦めて会社を去る者もいる。豊田会長が周囲から忖度されることが原因で、優秀な人材が辞めていくのでは本末転倒だ。

忖度系の人たちは、空気が読めて処理能力が高いから、当面は仕事がうまくまわる。しかし問題意識に乏しいから、将来的に問題となりそうな事象を見つけだす力が弱い。10年先、20年先を考えると、〈挑戦文化〉を身につけた人材を高く評価するほうが賢明だ。さもないと、実力のあるカリスマ創業者が後継者を育てきれずに失敗を繰り返す状況に似てくるだろう。