日本人は金融リテラシーが低い

8月5日、日本に衝撃が走りました。株式市場が「投げ売りのパニック状態」に陥って、代表的な株価指数「日経平均株価」も3万1458円42銭と、週末の終値から4451円28銭も急降下したのです。日経平均株価では、バブル経済期に起こった米国株の大暴落「ブラックマンデー」の翌日を凌ぐ、「過去最大の下げ幅」でした。

これは、2024年1月にスタートした資産形成促進制度「新NISA」にも冷や水を浴びせました。新NISAをきっかけに積み立て投資を始めたものの、今回の大暴落で慌てて売却したという人を多く見かけます。円安基調が続き、日経平均株価がバブル経済期を上回るなど、強気の株相場が続いたせいなどもあって、「投資では得をするだけでなく、損をすることもある」という当たり前のことを、日本国民が忘れていたように、私には見えます。

社会的金融教育家の田内学氏
撮影=宇佐美雅浩

新NISAの制度導入をきっかけにいま、日本では投資ブームが起こっているわけですが、私にとっては、日本人のマネーリテラシーの低さと、経済・金融に関する再教育の必要性を痛感する機会にもなりました。

私の言うマネーリテラシーは、投資を行い、商品の知識を身につけることではありません。新NISAは、「資産所得倍増プラン」を掲げる岸田文雄政権の政策の目玉でもあります。政府が「非課税投資枠の拡大」を用意し、金融業界がこぞってキャンペーンを展開する中、日本人が投資への関心を高めるのは個人の資産形成にとっては大切なことです。しかし、ブームに踊らされて制度や社会の仕組みを熟慮せず、「みんなやっているから大丈夫」と、大切な資産をわれ先にと投資につぎ込むことこそが、リテラシーが低いのではないかと思うのです。

まず、新NISAブームとは何かを理解する必要があるでしょう。そもそも、日本国民の貯蓄を投資に振り向けようという政策であれば、海外よりも「国内投資」を優先し、日本経済の発展につなげるのが筋でしょう。

ところが、新NISAには、国内投資を優先するストーリーが、なぜか見当たりません。一方で、新NISAで海外投資を促す話ばかりが、多く聞かれていました。例えば、全世界の株に投資するインデックスファンド「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」(比率で最も多いのは米国株で約61.6%。次いで日本で約5.3%。以下、イギリス、フランスなど)は運用成績がよく、日本経済新聞によれば、新NISA対象の投資信託で、人気No.1になったとのことです。

実際、周りの人からも「経済成長率では米国が日本を圧倒している」「IT産業は今後も米国が牽引する」「円安基調ではドル建てが安心だ」などと、とくに米国を投資先の中心とする投資信託を勧められることが多いでしょう。

もちろん、そういった誘い文句は必ずしも間違いではありません。しかし、金融機関の立場からすると、本音は別のところにあります。「外貨建て金融商品」は手数料など取れるお金が多い傾向にあり、たくさん販売するほど、金融機関の収入も増えるのです。それならば投資ブームの大チャンスを逃すわけにはいかない。儲かるから「外貨建て金融商品」を顧客に売り込んだほうがいい、そういう事情もあるのです。