517万世帯にいる専業主婦(2023年統計)は「働かなくてもいい」恵まれた立場なのか。階級構造について研究する早稲田大学人間科学学術院教授の橋本健二さんは「女性の階級を20カテゴリーに分けたとき、最も大きい割合を占める“多数派”は、労働者階級の夫をもつ専業主婦とパート主婦。しかし、彼女たちは再就職や正規雇用が困難なので、夫と離別・死別すればたちまちアンダークラスに転落してしまう」という――。

男性で年収ゼロの人はほとんどいないが、女性は10%以上いる

私は昭和34年生まれ。石川県の経済的に貧しい地域の出身で、日本に貧困層が存在するというのは幼いころから肌で感じていました。その後、お金持ちの子が多い都市部の高校に進学したことで「この世には格差がある」と実感し、東京大学に進んで格差について、学び始めました。以来、40年以上にわたってこのテーマを研究し続けています。

30年ほど前からは、特に女性たちの間の格差に関心を持つようになりました。日本は先進国の中でも韓国と並んで男女格差の大きい国ですが、実は女性だけにフォーカスした場合も、女性たちの間には男女差以上と言えるほど大きな格差があるのです。

もちろん、男性の間にも正社員とフリーターなどの格差はありますが、大多数は正社員・正職員で、途中で辞めることなくずっと働き続けています。また、最も収入が少ない層でも個人年収が完全にゼロという人はごくわずかです。

ところが女性の場合は専業主婦が一定数いることから、無職の割合が男性よりずっと多く、副収入や年金などを含めても個人年収が完全にゼロの人は全体の10%強にのぼります。有職でも、男性の正社員と非正規の割合がおよそ8対2であるのに対して、女性はほぼ半々となっています。

男性とは働き方がまったくと言っていいほど異なっていて、階層が無職、非正規、正社員の3つにくっきり分かれている。こうした状況の下では、必然的に女性内部の格差は男性のそれより格段に大きくなります。

「労働者階級の夫を持つ主婦」が女性の多数派という現実

私の著書『女性の階級』(PHP新書)では、SSM調査という社会調査をもとに、女性を30のグループに分けて分析した結果を解説しました。グループ分けは、本人の職業の有無と、資本家階級(事業を営み人を雇う立場の人々)や労働者階級(資本家階級に雇われて働く正規・非正規雇用の人々)などの所属階級、さらには夫の有無と、夫がいる場合はその所属階級をもとにして行いました。

SSM調査は1955年から10年ごとに行われているもので、最新は2015年、調査対象は日本全国から均等に抽出した20〜69歳の女性2885人です。この調査結果の中で、全体に占める比率が10.8%といちばん多かったグループは「労働者階級の夫を持つパート主婦」でした。

パート主婦とは、非正規雇用、かつ扶養の配偶者控除の限度額(年収103万円)以内で働く主婦を指します。生活を支える収入は夫に依存しながら家計補助のために働く人たちであり、子どもが少し大きくなって時間に余裕ができたものの、夫が家事育児をしないためフルタイムで働くのは難しいというケースが多くを占めています。

【図表】女性の所属階級と夫の所属階級
出典=『女性の階級』、筆者作成