イスラエル人学者が「定住神話のウソ」を喝破
ジョン・レノンは、「宗教がないこと、国家がないことを想像してみないか? そうすれば争い事はなくなり、世界はひとつになる」と歌った。「イマジン」だ。だが本書によれば、宗教も国家もすべては虚構。まったくの物語で存在しないというのだ。ただし、この虚構こそが、ホモ・サピエンスを地球の食物連鎖の頂点に立たせた真の理由だと断言する。
『サピエンス全史』は、冒険の書。私たちの固定観念や常識は粉々にされ、物事が新しい視点で見える魔法のような本だ。世界で2500万部が売れ、2500万人が目から鱗を落とした。
著者のユヴァル・ノア・ハラリは、イスラエルのハイファ出身。オックスフォード大学で博士号を取得、エルサレムのヘブライ大学で歴史学を教えている。イスラエルという国連によって作られた人工国家で育った環境は、大いなる影響を与えたのかもしれない。なお、著者は非ユダヤ教徒だ。
『サピエンス全史』は、文字通り、ホモ・サピエンス、われわれ現生人類の歴史である。ホモ(ヒト)属が誕生したのは、約250万年前。猿人から進化したアウストラロピテクス属が東アフリカに出現。200万年前に、東アフリカからヨーロッパ、アジアに進出する。そして、ホモ・エレクトスやホモ・ネアンデルターレンシス(ネアンデルタール人)など、ホモ属は同時期に世界中で暮らしていた。
ネアンデルタール人は、大柄で屈強、脳も大きく、現在の中東で狩人として過ごしていたホモ属の王だった。一方でサピエンス(賢い人)は、東アフリカでライオンやハイエナの残した獲物から石器で骨を割り汁を吸ったり、木の実を食べたりの生活だった。だが、およそ7万年前に非常に特殊な進化が起こる。「認知革命」と呼ばれる脳内の進化だ。サピエンスは突然、東アフリカからヨーロッパ、アジアに広がり、海を渡ってオーストラリアにまで移住し始めた。10万年前には敵わなかったネアンデルタール人を打ち破り、その最後の一族をスペインまで追い詰め、全滅させる。そしてホモ属の生き残りになる。
認知革命とは、遺伝子の突然変異が起こり、脳内の配線が変わり、それまでにない形で考え、まったく新しい種類の言語を使って意思疎通することが可能になったというものだ。肉体的に優れているわけではないサピエンスが集団で狩りをすることで、巨大マンモスを倒せるようになった。それによりマンモスも絶滅する。あくなき欲望で、自然からすべてを奪い取る。これもまたサピエンスの宿痾か。
そして約1万年前、「認知革命」に続いてのエポック、「農業革命」を迎える。狩猟採集の生活からスタイルを変え、定住して農耕、畜産の生活を始めた。小麦、稲、イモを育て、豚や羊などを飼う。農業革命は、人類にとって大躍進だとする説もあった。不安定な狩猟採集の生活から、食料の不安のない生活を手に入れたという説だ。
著者はこれを史上最大の詐欺だという。人間が小麦を選んだのではなく、小麦が人間を選んだのだと。認知革命から農業革命の間、サピエンスは5万年以上、狩猟採集の生活を送っていた。農耕より遥かに豊かな暮らしだった。食物は栄養バランスが良く、気候変動に左右される農耕生活と違い、食料がなくなれば、ある場所に移動すればいい。しかも、労働時間は5時間程度。気楽な人生だった。ところが、農耕はちがった。雑草を刈る、水を引く、虫を駆除する。一生懸命に世話をしても、干魃、水害、イナゴの大発生。つねに危険との隣り合わせだった。穀類に基づく食事は、ミネラルとビタミンに乏しく、消化しにくく、歯や歯肉に非常に悪い。しかも、労働時間は8時間以上に延びている。
穀物によって人間が得られたものは、単位面積あたり、より多くの食物が取れるという事実。そして人類は、栄養バランスの偏りから以前より不健康ながら、人口を爆発させた。
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