数学的な発想が苦手な日本人
日本人の思考に関する得意不得意には、ある特徴があります。それは、数学的な発想ができないという点です。
読み書きそろばんの読み書きまでは、だいたいの人はクリアしています。しかし、みっつめのそろばんは、単純計算はたいていの人はできますが、それが数学的発想に結びついていかないというのは、大きな弱点です。
では、思考の幅を広げる数学的発想とは、どういったものでしょうか。
まず挙げられるのが確率論的思考です。これは唯一不変の答えがない世界を生きていくうえで、判断の手がかりを得る有効な方法です。
たとえば高血圧症は、降圧剤で正常値まで下げたほうがいいと推奨されています。みなさんの多くも、高血圧は薬で治すべきだと考えているでしょう。
ここでアメリカのデータを例にしますが、高血圧とされる収縮期血圧170㎜Hgの群を見ると、降圧剤を服用しないと6年後、8.2%の人が脳卒中になり、服用しても5.2%の人が脳卒中になります。
いま医学界ではEBM(Evidence-Based Medicine=科学的根拠に基づく医療)の取り組みがさかんです。データ的根拠に基づいて、脳卒中の発症率が8%から5%に減ったのだから、効果があると考えます。これもひとつの確率論です。
思い込みや決めつけを防ぐ有効な手段に
しかし、先ほどのデータ結果を言い換えると、そもそも降圧剤を服用しなくても90%以上の人は、服薬治療の大きな理由である脳卒中にはならないということです。
となれば、わざわざ長期にわたって薬漬けにならなくてもいいのではないか。これがもうひとつの確率論です。
病院で「薬を飲めばリスクが8%から5%に下がりますよ」などと言われれば、「はいそうですか」となりがちですが、冷静に確率論的発想をしてみれば、治療法選択の判断材料になるわけです。
少なくとも降圧剤を飲めば脳卒中にならないという話も、飲まないと脳卒中になるという話もウソだとわかります。
さらに、ここに長期服用による副作用の問題などが絡んでくれば、複数の確率論を手がかりに総合的に判断するのが妥当となります。
あるいは、いまテレビを見ていると、大事故、残虐事件、大災害などが起きると、どの局でも視聴者を洗脳せんばかりに、強烈な映像を何度も何度も流し続けます。
こういうある種、衝撃的な映像を繰り返し見せられたり、過度に不安をあおる情報にさらされ続けたりすると、人間は適正な判断力を失っていきます。確率の低いことを過度に恐れるようになるわけです。
こうしたまずい事態を回避するためには、思い込みや決めつけによって抱くイメージを、数字的データに照らし合わせて検証するという手順を踏む必要があります。
数学的発想は思い込みや決めつけを防ぐ有効な手段。
何となくぼんやりとした思考をだらだらとするのではなく、このようにふだんから情報と数字的根拠を結びつけることを習慣化するよう、意識してほしいと思います。