「掃除しろ!」では解決しない

さて、再び話を斎藤さんに戻します。

彼の生活状況・能力を大まかに把握して帰院した私は、部署に報告し、今後について話し合いを行いました。結果としては、まずは職員たちが斎藤さんと自宅の掃除をすることになりました。それから、週に数回は本人と一緒になってゴミ出しや掃除をする日を設けました。その定期的な関わりの甲斐あって、ゴミ問題は徐々に収束していきました。しかし職員による継続的な世話がなければ、またすぐに元の状態に戻るのは明白でした。

そうならないために幸いだったのは、彼と私たちとの関係が良かったことです。

だからこそ、なぜゴミ屋敷化するのかを継続的な関わりを通して見ることができたような気もします。ここで紹介したように知的発達症が関係する場合には、そもそも生活能力が乏しいという困難があるのです。なので「ちゃんと掃除しろ!」と指図しても、彼らは理解することができなかったはずです。支援者(福祉関係者)との関わりを拒む要因になったかもしれません。

ゴミ屋敷の住人に悪意はない

斎藤さんの例ではゴミ屋敷化のきっかけは病院からの退院でした。女性の例では実父の死去でした。このほかにも、面倒を見てくれていたきょうだいが亡くなって独居になった、親から一人暮らしを迫られて家を出たなど、環境の変化がきっかけになることが比較的多い印象です。こうした変化によってゴミ屋敷化し、本人の知的発達症が明らかになることもあります。生まれ持った能力ですから、本人に責任はありません。

要するに「もともと抱えていた課題+環境の変化」によって、社会的な問題にまで発展するのです。

おそらくはゴミ屋敷問題の中でも、知的発達症によるものはかなり多いはずです。なぜなら、その他の原因と比べても有病率が高いからです。

補足ですが、注意欠如多動症(ADHD)もこの問題を語る上では外すことができません。ゴミ屋敷化しているような場合には知的発達症との併発を考慮しなければならないでしょう。多動・衝動、注意欠如などADHDの特性だけでは説明しきれない生活能力の低さがあるからです。

彼らの多くは、悪意もなければ近隣迷惑へと発展している理解も乏しいのが現状です。誰かが一緒に生活環境を継続的に整えてやるほかありません。

ゴミ屋敷問題における精神科領域からの理解と福祉的介入。――その必要性を痛感するきっかけとなった事例でした。

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