ゴミ屋敷に住んでいる人はなぜゴミを集めてしまうのか。公認心理師の植原亮太さんは「統合失調症の人は、幻想や妄想の症状によって結果的にゴミを集めてしまうことがある」という。第3回は、冷蔵庫を集めてしまう男性の事例を紹介する――。(第3回/全4回)

※事例は個人情報に配慮し一部加工・修正しています。

「幻覚・妄想」によってゴミ屋敷化してしまう家

今回は統合失調症のゴミ屋敷についてです。

これまで、①知的発達症、②認知症が関係するゴミ屋敷問題を取り扱ってきました。いずれも脳機能障害が関係する精神疾患であり、本人の努力不足などによってゴミ屋敷問題が起きているわけではありません。これから述べていく統合失調症も同じで、連載を続けてお読みくださっている方は根本的な解決が難しいのだと感じ始めているのではないでしょうか。

統合失調症が原因のゴミ屋敷問題は、これまでに紹介してきたものと一線を画しています。その意味は、幻覚・妄想に基づく特殊な背景があるところによります。

粗大ごみ
写真=iStock.com/Michael Tagoe
※写真はイメージです

慢性期の統合失調症患者の家がゴミ屋敷化しがち

やや専門的な話になりますが、統合失調症には病状の進行時期によって特徴的な症状があります。大きく分けると、

i 前駆期:妄想気分の出現
ii 急性期:「陽性症状」と呼ばれる幻覚・妄想が活発になる(入院治療が必須)
iii 慢性期:「陰性症状」と呼ばれる意欲の低下やひきこもりが目立つ

と、なります。

ゴミ屋敷化に至る可能性が高いのは、患者さんが慢性期状態にあるときです。この時期は急性期のような激しい陽性症状は小さくなりますが、代わりに陰性症状が目立つようになるのです。小さくなった幻覚や妄想を抱えながらも、彼らは社会生活を営んでいます。しかし、以前のような生活ができないこともあります。生活技能が幾分か低下し、たとえば入浴や身だしなみにも頓着がなくなってしまうことがあるのです。

一方で、急性期のような錯乱状態ではないので、精神科医療機関における強制的な入院に至ることはありません。

今回は、この慢性期の統合失調症の事例です。