症状を抱えながら社会生活を維持している
彼の自宅を辞去した後、私と保健師さんの見立ては彼が統合失調症を患っているということで一致しました。後日、改めて訪問した医師の診断も同じでした。
少し話がそれますが、統合失調症の有病率は約1%だと言われています。精神科では、とてもメジャーな疾患ではありますが、知的発達症や認知症などに比べると、その割合はかなり少ないのです。
統合失調症というと幻覚や妄想などの症状を思い浮かべる方も多いでしょうが、実はこの症状の期間は全体を通して見るとごくわずかです。多くを占めるのは、症状を抱えながらも社会生活を維持している慢性期の状態です。
しかし、この慢性期状態にある患者さんが起こす生活障害は、ときに専門家も見落としてしまうことがあるのです。最近では、大人の発達障害に見誤られることも少なくないようです。
話を戻します。
多くの人が「ゴミ」だと思うそれらは、彼からしてみたら「奴らから自衛する」大切なものです。強制的に私たちがそれらを撤去したら、彼はひどく混乱するでしょう。下手をしたら、病状の悪化に起因するかもしれません。かつ症状を抱えながらも、自力で地域生活を維持しているので、無理に通院を促すことも難しい状況です。
冷蔵庫と一斗缶は住人にとって必要なもの
その後、なんとか私たちは彼に警戒されない存在となることができました。
「暮らしをより良くするためのサポート」と称して訪問看護を受け入れてもらえるようになりました。タイミングを見計らって住環境の整備を提案し、少しだけ受け入れてもらうこともできました。が、服薬治療だけは頑なに拒み続けました(もちろん、服薬治療できたところで、どれだけ症状が軽くなるのかは未知数なのですが)。
陰性症状が綺麗さっぱりなくなることは難しく、彼が主張するところの「電磁波が脳を溶かす」ので、その「自衛のための冷蔵庫と一斗缶」は排除することはできないと繰り返していました。
ゴミ屋敷問題には、精神科領域からの理解と福祉的介入が必要になることが多々あります。けっして「怠惰」「だらしがない」だけが理由ではないのです。