相次ぐ訪問看護事業者の不正請求事案
近年、訪問看護事業者による診療報酬の不正請求事案が相次いでいる。
2月には、全国で老人ホームなどを運営する金沢市の会社が、診療報酬約28億円を不正に請求したとする疑惑を朝日新聞が報じている。また3月には東京都足立区の精神科病院が診療報酬483万円を不正請求していたとして、都が返還を求めている。
訪問看護とは、看護師や作業療法士などが自宅などで療養している人を訪ねて医療を施す行為である。彼らは主治医が作成する訪問看護指示書に基づき、介護保険が適用される高齢者には血圧や体温測定などの医療的な処置を行ったり、医療保険が適用となる65歳未満の精神障害者などには、精神状態の確認の意味も込めて話し相手になったりする。
いずれも在宅生活を支えていくのが主な目的で、ひとことに「医療」と言っても、その内容は幅広く、線引きも曖昧なところが多い。
言うまでもなく原資はわれわれが収める保険料であり、すなわち税金だ。3月には高額療養費の上限引き上げが凍結されたが、高齢化や医療の高度化で医療保険の財源は逼迫している。
なぜ制度を悪用する事業者が後を絶たないのか
ところが、不正請求事案には、こうした幅広い支援内容が仇となっているようなものも見受けられる。
具体的には、訪問した時間を実際よりも長く見せかける、単独で訪問したのにもかかわらず複数人の有資格者で訪問したように見せかける、行っていない処置を行ったことにする――などだ。つまり、実際には行われていない医療行為を、あたかも実施したように装って多くの「単位」を請求し、過大な報酬を受け取るというものである(筆者註:「単位」とは、診療行為ごとに定められた保険点数のことで、1点は10円に定められている)。
たとえば、30分未満の訪問よりも30分以上の訪問のほうが診療報酬として定められた単位は高く、事業者が得る診療報酬も多くなる。
容易に偽装することができる現状の制度や監査体制の甘さにも問題があるのは、本稿を読み進めていけばご理解いただけると思うが、そうまでして事業者が利益を求めようとする理由はどこにあるのか。
今回、ともに作業療法士として20年近くのキャリアを持つ足立佳奈さん(仮名)と佐々木修二さん(仮名)に話を聞くことができた。