知的発達症患者のゴミ屋敷の特徴

私は質問を続けました。

「斎藤さん、ゴミを何曜日に出すのか知っていますか?」
「月曜日だよ」

と軽快に答えますが、この自治体で可燃ごみの日は火曜・木曜でした。

周りを見渡してみても、お惣菜の容器や割り箸などは汚れたままで散乱しています。部屋のどこか一箇所にまとめているとか、ゴミ袋の中に集められているとかの様子もありません。少し整理するために私がゴミをまとめようと移動させると、その下を素早くゴキブリが動きます。

食べ残しがある弁当容器に爪楊枝が刺さり、プラ製のレンゲも
写真=iStock.com/montiannoowong
※写真はイメージです

退院してから2年ほどの居宅生活を彼は単独で行っていたわけですが、むしろ、よくここまでがんばったものだと私は思ったのでした。どちらかというと、退院後にこうなるかもしれないということを予測できなかった、私たち医療側の責任もありそうです。

彼とのやりとりからは、生活全般の能力が不足していることは明らかでした。

生活状況から判断すると、可燃・不燃というゴミの種類があるという物事への「概念的」理解、それからゴミの捨て方など日常生活の「実用的」理解に、それぞれ困難があるようでした。これらは知的発達症を評価する際に用いられる指標で、生活能力にほぼ直結します。

それゆえ知的発達症が原因でゴミ屋敷化している場合、生ゴミや汚物などの処理ができていなかったり、金銭管理ができていなかったりといった特徴が表れやすいようです。

したがって「概念的」「実用的」の両領域に明らかな課題がある場合は、福祉的な介入がないと自力での居宅生活に困難をきたすことがあります。

後の連載でも詳しく述べていきますが、疾患別に応じてゴミ屋敷の内容と成り立ちは異なるのです。

玄関を開けた途端頭に大量のゴキブリが…

もう一つ事例を紹介します。知的発達症が関係したものでは、とても印象的だったからです。

ある女性は体が不自由な高齢の実父と同居していましたが、その実父が亡くなってしまいました。しかし女性は、実父の遺体と推定5年以上にわたって「同居」していたのです。その理由は「(お父さんの)捨て方がわからなかったから」。

当初は実父が受給している年金目当てに死亡したことを隠していたのではないのかと疑われ、詐欺と死体遺棄の容疑で逮捕されましたが、精神鑑定の結果で知的発達症が明らかになったので、故意ではないとして不起訴処分になりました。以後、福祉機関の介入がなされました。

その部屋の中はというと、やはりかなりの量の食品の空き容器と、彼女が好きだというキャラクターのコレクションが大量にありました。ここでも「捨てる」「分別する」「物が増えたらどうなるのか」ということは理解できておらず、生ゴミと物の多さが目立ちます。

行政の力も借りてトラックで不要なものは搬出しましたが、害虫駆除のバルサンが焚き終わるのを外で待ち、時間を見計らって玄関扉を開けると、無数の死んだチャバネゴキブリが私の頭に降ってきたのを思い出します。少しでも空気が新鮮な外のほうへと虫も逃げ、玄関扉の隙間に入り込んだのでしょう。