為替レートの基本的な原理を知ろう
現在、新型コロナウイルス後のインフレ退治に時間がかかり、米国では高金利政策が続いている。その結果、極端ともいえる円安が進行し、日本経済にも大きな影響が出ている。日本が今後どのような金融政策をとるべきかを理解するには、変動相場制における為替レートの役割について知る必要がある。
今回は為替レートとマクロ経済がどのように関係し、国民生活に影響を及ぼすかを示す「オープン・マクロ経済学」の基本的な内容を説明しよう。アベノミクス以前の20年にわたる日本経済の低迷や、黒田東彦日本銀行総裁(当時)の異次元の金融緩和と結びついたアベノミクスの成功、そして現在インフレ前夜とさえ見える超円安の状態にどう対処したらよいかを、一貫して理解できるのである。
まず、現在の変動為替制のもとで、各国の金融政策がそれぞれのマクロ経済状況にどのように影響を及ぼすのかを考えよう。固定為替制度では、一国が金融緩和を行うと、その国の総需要が増加するだけではなく、他国にも(本国よりは弱いものの)プラスの影響を与える。したがって、ある国が金融緩和をした場合には、他国はその影響を緩和するために自国の金融をやや引き締める(金利を上げる)ことで対応すればよかった。
一方、変動為替制のもとでは、為替レートの変化が各国のマクロ経済に決定的な影響を与える。自国の金融緩和が自国の為替レートを減価させ、輸出増や輸入減を通じて自国の総需要を増やす点では同じだが、他国の為替レートを増価させるため、他国の輸出の減少、輸入の増加を通じて、他国にとっては総需要を減少させる形で働く。したがって、変動為替制のもとでは、一国が金融緩和をしたときには、自国も(相手より控えめな)金融緩和で応じなければいけない。
発達した国際金融市場では、為替レートは、世界中の経済主体(企業、政府、投資家など)が市場でどれだけ円やドルの資産を持っているかに基づいて決まる。このため、円やドルの資産が市場でちょうどいいバランスで保有されるように、為替レートが調整される。ミカンとリンゴの相対価格が、存在するミカンとリンゴの数量によって決まるようなものだ。そのため、為替レートは将来の期待や市場の動きに影響されやすく、変動しやすい性質を持っている。
為替レートを決めるもっとも重要な要因は、両国の中央銀行の発行する貨幣残高の比率(市場に出回る通貨の量)、中央銀行が政策的に操作できる中央銀行の総資産残高の比率(中央銀行が保有する資産の合計額)に依存すると考えられている。
世間や国会では、財務省がドルを売買して為替市場に直接介入することに注目が集まっている。たしかに、日本を含む多くの国で財務当局が為替介入の権限を持っているが、すでに説明したように、為替レートを決定するのは当事国間の金融政策の違いである。
たとえば、円安が進みすぎたときに、財務省がドルを売って円を買おうとする場合、財務省はドル資産を市場で用意しなければならない。しかし、財務省がドルを購入したところで、経済的には為替レートを決める円ドルの資産の比率に何も影響を与えられない。こうした介入が「不胎化介入」と呼ばれるゆえんである。