各層をボリュームで比較
順位でなく各ドラマをボリュームで比較してみよう。
●小学生が好むドラマ
まず「ブラックペアン」はボリューム層の中高年で荒稼ぎしているために「個人全体」が断トツなことがわかる。若年層でも首位を独走し、理想的なドラマとなっている。
ところが、死角は「小学生」だ。
「ブラックペアン」は、子供たちに断トツ人気の「海の始まり」の7割に届かない。「西園寺さんは家事をしない」にも後塵を拝した。このため「小学生の親」たちでも並ばれてしまった。
さらに「小学生」で興味深いのは、学園ものの「ビリオン×スクール」だ。
「65歳以上」では「ブラックペアン」の4分の1倍ほどだったのに、「小学生」では肉薄した。実は同ドラマは「中高生」でも健闘しており、一部のネット記事のいう「苦戦」「爆死」は当たらない。
実はフジの無料VOD再生数(7月)は、民放史上初の月間1億回超を果たした。「海のはじまり」「ビリオン×スクール」の貢献度はかなり大きいはずだ。数字を出せば、「海のはじまり」が2873万再生をはじめ、4ドラマ合計での5621万回に及んだ。「ビリオン×スクール」もネット上ではよく見られたのである。
確かに「65歳以上」では“爆死”だったが、未成年をターゲットとしたためにビジネスとして一定の役割を果たしていたということになるだろう。
中高生でも異変
●中高生に支持される
「小学生」の他、「中高生」でも珍しい現象が起こっていた。
松下奈緒が主演のテレ朝「スカイキャッスル」は高級住宅街「スカイキャッスル」に住む受験生の子供を持つ複数のセレブ家庭の衝突などを描くストーリー。韓国人気ドラマの日本版だ。
「65歳以上」で4位、「個人全体」で6位と健闘した一方で、「コア層」では9位、「F1」では10位といまひとつの結果だった。
ところが、さらに年齢の低い「中高生」では珍しい状況となった。この世代の「女子」では13位でトップ「ブラックペアン」の5分の1ほどに低迷。ところが「男子」では一躍2位に躍り出た。そして「小中高生の親」たちも注目するドラマとなったのである。
「何のために勉強させるの(中略)子育てとは何かを考えさせられます」
「自分も似たような環境で育ってきた」
「ひとごととは思えない部分が多い」
受験への異常な執着や愛息への過剰な期待。どうやら母と息子の関係という意味で、身につまされる思いで注視した「男子中高生」が少なくなかったようだ。その一方で「女子中高生」はそうでもなく、むしろ「西園寺さんは家事をしない」で2位という実態が興味深い。この見られ方の違いが、今も日本の親子関係に残る一側面なのかも知れない。
ちなみにフジの4ドラマだけでなく、「スカイキャッスル」も最初の3日間で見逃し配信の再生数が126万回と大記録となった。これらの現実はどう受け止めるべきだろうか。
どうやらドラマ番組を正しく評価するには、「65歳以上」に左右される「個人全体」などの視聴率だけでは不十分なようだ。
「ビリオン×スクール」や「スカイキャッスル」のように、全体としてそれほどでなくても、ある特定の層に強烈に見られるドラマは、ネット上で新たなビジネスにつながる可能性を持つ。これまでマスを追ってきたドラマは、特定の一部を引き込むことで成功する新たな時代へと突入したようだ。