「伝説」に惑わされてはいけない

ビジネスの世界に慣れ、銀行家たちと付き合いが始まり、いっぱしの企業人になると、あなたは次のことに気づく。

「ビジネスに終わりはない」どこまで行っても、ゴールはないのだ。

そして、誰よりもビジネスが上手な賢人という人も、この世には存在しない。

仮にあなたが大成功して、ビジネス界の王者になったとしよう。その場合でも、調べてみれば似たような業績を上げた人はいくらでもいるものだ。

ぼくたちはみな、似たりよったりなのである。

やがてあなたに「貴重な」アドバイスをくれる人が出てくる。耳寄りの知識を伝授しに来る人も近づいてくるだろう。世界を股にかけた人脈を誇る人も寄ってくるはずだ。なるほど、彼らは大きなリムジンに乗っている。オフィスは立派、銀行口座もケチのつけようがない。

しかし、一皮むけば、メッキは簡単に剥がれる。ビジネス雑誌『フォーブス』が記事にするような賢い経営者の知恵というものも、衣を脱がせば、何のことはない、生活の中でどこにでも転がっている知恵をまとめたものに過ぎない。

成功した経営者はやるべきことをきちんと実行した。それだけ。

そこに「誰も知らないとっておきの成功の秘密」など、ない。びびることはないのだ。

ビジネスの世界は相当複雑で、しかも高速に変化している。だから、大企業トップは日替わりのように代わる。多くのトップはどっしり椅子に座るというより、かろうじてぶら下がっている、というほうが正しい。

大企業の業務システムが常にぐらついている理由

少し前、大手化学メーカー、ユニオン・カーバイド社の副社長と話す機会があった。彼はこう言った。

「うちの経営幹部の誰一人として、大企業をマネジメントする方法なんて知らないんだ」この数年後、インド・ボパールの大惨事が起きた。

赤ん坊でもわかる程度の問題すら、幹部たちの手に負えないありさま。これというのも、企業組織の複雑さが原因である。

大企業の業務システムはぐらついている。主な原因は、たとえスーパーコンピュータであっても解けない。なぜなら、問題の多くの根っこは、人に関するものだから。そしてこのことは往々にして忘れられがちだ。

「フォーチュン500」のような大企業に限らず、それより比較的小さい企業であったとしても例外ではない。大企業の運営の複雑さから見れば、アレクサンダー大王の偉業など、まるで子どもの遊びに見えてしまうほどだ。

ポール・ホーケン『ビジネスを育てる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
ポール・ホーケン『ビジネスを育てる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

新聞や雑誌に掲載されている全知全能な経営の神様といった物語は忘れてしまおう。読者の夢をくすぐるためだけに書かれているのだから。騙されてはいけない。

大企業に比べ、スモールビジネスの経営者は日常オペレーションのコントロールが比較的自分の掌中にある。

ところが会社が大きくなるにつれ、起業家は徐々に「会社(corporation)」の語源(corpus)が身体(body)を意味することに、「なるほどなあ、たしかになあ」と気づき始める。

ビジネスが大きくなると、会社自身が生命を持ち始めるのである。そして創業者は会社と自分との間に距離を感じ始める。

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