自前主義の強み
この「自前主義の強み」に気づいたのは、その数年後、友人が新しくカタログ会社を立ち上げたときだ。彼は創業キックオフを伝えるメールカタログを50万部用意した(ぼくたちスミス&ホーケンは487部)。友人は、カタログ作成をダラスの大手企業に発注した。
ある日、ランチを共にしながら、コストはいくらかかったのか訊いてみた。制作費だけで10万ドル。点心を喉につまらせたぼくを気遣いながら、彼は訊いた。
「君の会社はいくらかけたんだい?」
この時点で、スミス&ホーケンのカタログは100万部の購読者に成長していた。ぼくは彼に、まだまだコストダウンは可能だよ、とアドバイスした。
友人は写真に2万5000ドルかけていた。ぼくの会社は4000ドル。コピーライティングに1万2000ドル。うちは自分たちで考えた。カタログレイアウトとデザインに2万5000ドル。
うちの社内デザインチームは6000ドル。タイポグラフィに1万5000ドル。うちは2700ドル。スタイリストに5000ドル。ぼくはカタログのスタイリストって、一体誰がどんな仕事をするんだい? と質問した。
以上、トータル8万2000ドルを友人は支払っていた。一方うちは1万2700ドル。
自分で学んで向上する絶好のチャンスを逃している
友人の会社が現在店じまいしているのは決して偶然じゃない。お金を潤沢に使えたからスタートダッシュは見事だったかもしれない。しかし、だからこそ彼は躓いた。自分で学んで向上する絶好のチャンスを手にしそこなったのだ。
政治家はスモールビジネスを支援したがる。起業家にとってみれば、お金はないよりあったほうがいいので一見ありがたく思える。しかし、ぼくはこの傾向が、逆に「お金さえあれば問題はすべて解決する」という危険な考えを助長しはしまいかと懸念している。
スモールビジネスにとってお金のあることは決して雇用創出やイノベーションに結びつきはしない。逆に妨害になったりする。
お金ですべてが解決するのであれば、スモールビジネスの出番などないことになる。資金が潤沢にある大企業がすべてをやればいいのだから。
起業家が関わる以上、スモールビジネスは、お金では解決できない類の問題に取り組むからこそ、この世に生まれたと言っていいのだ。