東京都知事選挙で2位に躍進した前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏の言動が「石丸構文」としてネット上で話題になっている。神戸学院大学の鈴木洋仁准教授は「石丸氏はネットを中心に支持を広げてきた。もともと『援軍』であったはずのネットで早々に『おもちゃ』にされている背景には、石丸氏に対するネットユーザーの『悔しさ』があるのではないか」という――。
投開票日を迎え、記者会見する石丸伸二氏=2024年7月7日午後、東京都新宿区
写真=時事通信フォト
投開票日を迎え、記者会見する石丸伸二氏=2024年7月7日午後、東京都新宿区

「石丸さん、サブウェイ注文できるかな」

東京都知事選挙で165万8363票(得票率24.3%)を獲得し、2位に入った前安芸高田市長の石丸伸二氏が、「ネットのおもちゃ」にされている。

都知事選開票特別番組での質問に質問で返すなどの「かみ合わない」やりとりが「石丸話法」と呼ばれ、タレントのふかわりょう氏の「【心配】石丸さん、サブウェイ注文できるかな。」というポスト(投稿)をきっかけにX(旧ツイッター)上で「石丸構文」として、大喜利状態が続いている。

「SNS戦略」の操り手と称され、都知事選ではSNSを中心に支持を集めてきた。そんなネット上の「勝者」であるはずの石丸氏が、遊ばれているのは、なぜか。

石丸氏は、都知事選で多くの票を獲得した理由について、みずから「ネットを駆使したという評価もわからなくはないが、ネットに頼ったつもりは全くなく、街頭演説228回はどの候補よりも多かった」と振り返っている

実際、石丸氏の公式YouTubeチャンネルにアップされている動画の再生回数は、飛び抜けて多いわけではない。6月12日の30秒ほどの動画が206万回再生(2024年7月11日時点)で目立つぐらいで、街頭演説は最多でも17万回再生である。少ないとは言えないものの、この数字だけを見れば「ネットを駆使した」とされるほどではないだろう。では、なぜ、「戦略」とまで言われるのだろうか。

なぜ「無党派層」から支持を集めたのか

周知の通り、石丸氏の演説などを切り抜いて、再編集した動画が、かなり見られているからである。たとえば、YouTubeチャンネル「ReHacQ リハック」でのインタビューを抜粋した58秒ほどの動画の視聴回数は、196万回を超えている。元の動画も61万回を超えているとはいえ、47分52秒もの動画を真剣に、最初から最後まで見られる人は、珍しい。

「戦略」と言えるとしたら、石丸氏やその陣営が、動画の切り抜きや共有を促したところにあるのではないか。ただ、LINEで友だちに広めてほしい、とか、ハッシュタグをつけてXで拡散させてもらいたいなどと呼びかけるだけなら、支持は広がらなかっただろう。

石丸氏が支持を集めた理由は、彼が「政治屋」と定義する既存の権力に対するアンチテーゼをはっきりさせていたからである。安芸高田市時代には、議会出席中の議員に対し「居眠りしている」と指摘、「恥を知れ」と怒鳴りつけ、今回の選挙でも自分は政治家の地位にこだわっているわけではない、と強調したからである。これまでの勢力とは違う、それが彼のアイデンティティーであり、「切り抜き動画」を見る人たちのフックとなってきた。

かつて小泉純一郎氏が「小泉内閣の方針に反対する勢力は、すべて抵抗勢力」と名指ししたように、石丸氏以外はすべて「政治屋」であるかのように見えたから、無党派層から多くの票を呼び寄せたのである。