ベトナム人は日本のことをどう見ているのか。『日本人の知らないベトナムの真実』(扶桑社新書)を書いた川島博之さんは「日本に好意を寄せるベトナム人は多いが、経済面では『終わった国』と見なされるようになった。韓国・サムスン電子の携帯工場ができて状況が一変した」という――。
ホーチミン市、2013年10月15日
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ベトナム人の多くが日本に良い印象を持っている

ベトナムは親日国と言ってよい。学校では1945年の北部の飢饉は日本の帝国主義者がもたらしたものだと習うが、それを繰り返し教えられているわけではない。歴史の一コマとして習っているだけだ。

そして日本と同じで、庶民は歴史教科書の詳細な記述など覚えていない。一部のインテリは覚えているが、そのインテリも学校で習う共産党史観に疑問を持っているようで、日本を悪者とは思っていないようだ。だから歴史教育が反日を生んでいる中国や韓国のような状況にはない。

日本はベトナムの最大のODA供与国であったことから、その記憶の方が強い。日本はハノイのノイバイ空港や空港に通じる橋や道路を建設しており、それに対する感謝の方が大きい。労働研修などで日本に来て働いたことのある人も、その多くは日本に良い印象を持っている。

送り出し機関と警察との癒着

その一方で、ベトナムの送り出し機関が多くのお金を徴収していることに恨みを抱いている。

日本に労働研修に行くためには100万円程度の費用がかかる。日本に出稼ぎに行きたいと考えている農村に住む若者がそんな大金を持っているはずもなく、多くは借金をしなければならない。多額の借金を抱えて日本に来ることが、研修生の一部が日本で犯罪に走る原因の一つと言われている。

送り出し機関は地方の警察と結び付いていると言われており、暴利を貪っていることについて中央もコントロールできていないようだ。先にAICグループのニャン会長の汚職事件に触れたが、AICは送り出し事業も行っていた。だから日本政府は彼女に旭日小綬章を与えたのだが、彼女はベトナム人の怨嗟の的になっていた。