送り出し事業を巡るスキャンダル
以下は筆者の邪推である。
チョン書記長とその周辺は、送り出し機関を経営して庶民から恨みを買っている美人経営者を逮捕すれば、庶民が喝采すると考えたはずだ。そして彼女は公安出身のチン首相と仲が良かった。背後にチン首相がいたために、彼女は送り出し事業を大きく拡張することができた。
書記長周辺はそのことを知り、チン首相の政治力を弱めるためにニャンに逮捕状を出した。それは首相と美人経営者との不倫という、誰もが飛びつくスキャンダルに発展した。不倫が事実であったかどうかは、今もよく分からない。スキャンダルは事実に基づかなくてもよい。
チョン書記長周辺にいる共産党の官僚はこの辺りの情報操作に長けている。庶民の怨嗟の的であるニャンに逮捕状を出したことで、チョン書記長の人気は高まり、チン首相は失速した。
送り出し機関は多数存在しており、それは合法である。だから、ニャンについても10年も前の病院への機材導入に関わる汚職で逮捕状をとった。
このような事情を知ってしまうと、彼女に旭日小綬章を与えた日本政府の判断はいかがなものかと思ってしまう。日本外交にはこのあたりの機微を読むまでの能力はない。労働研修生の送り出しに貢献してくれたということで、旭日小綬章を与えてしまった。
ただ、彼女が日本から旭日小綬章を貰ったことを知っているベトナム人がほとんどいないから、この件で日本の評判が落ちたということもないようだ。ベトナム人は日本の勲章などに興味はない。
ベトナムで韓国の存在感が高まるワケ
ベトナムを語るには、韓国について語らなければならない。ベトナムにおいて韓国は、投資や貿易の面で日本を遥かに上回る存在感を示している。現在、ベトナムに約20万人の韓国人が滞在している。日本人の滞在者は約2万人である。ただ、昔から多くの韓国人がベトナムに滞在していたわけではない。15年ほど前にサムスンがハノイの東のバクニン省に巨大な工場を建設したあたりから、その数が一気に増えた。
これには韓国の国家戦略に関係している。21世紀に入って国力が伸長した韓国は、海外へ進出しようとした。まず、韓国は中国に進出した。中国は隣の大国であり、経済的にもチャンスがある。ただ、中国人は朝鮮半島に住む人々を下に見る傾向があり、韓国の技術水準が中国を大きく上回っている時期でさえ、韓国企業は中国から各種のいじめを受けた。
朝鮮半島に住む人々は、海を隔てた日本人と異なり中国人の本質をよく知っている。弱い時は下手に出るが、強くなると傲慢になる。今後、中国の技術水準が韓国に追い付いてくると、もっと虐められるに違いない。中国に進出し続けても限界がある。
そう考えた韓国は、いち早く「チャイナ・プラス・ワン」戦略を取った。それがサムソンのベトナム進出であった。15年ほど前、日本企業は軸足を中国に置いていた。ベトナムに本格的に進出するなどという戦略は馬鹿げたことのように思えた。