「もうじきウナギが食べられなくなるかもしれない」
ニホンウナギもワシントン条約締約国会議において付属書に掲載されるのではないかという観測が持たれている。3年に1度の締約国会議が近づくにつれ「もうじきウナギが食べられなくなるかもしれない」、と消費者の危機感をあおる報道がなされたりもする。
付属書に掲載されると貿易制限がかかる。掲載を避けたいという思いは輸入側である日本の消費者だけでなく、輸出側である中国、台湾、韓国の生産者にも共有されるようになった。2016年の締約国会議を前に、2015年、これらの国・地域からなる「持続可能な養鰻同盟(ASEA)」が発足し、政府間のみならず民間ベースでも国際的な資源管理に取り組む機運が生まれている。そんな努力が奏功したのか、2016年以降の締約国会議ではニホンウナギは議題に上がっていない。ヨーロッパウナギについては、捕獲から輸出・輸入に至るトレーサビリティをより強化することが求められた。
後述するように、ヨーロッパウナギの代替財として東南アジアに生息するビカーラ種が輸入され、次いでアメリカウナギが輸入されるようになっている。2023年末現在、中国・福建省のうなぎ養殖業者がアメリカウナギのシラスを輸入して蒲焼を作り、日本へ輸出していることが報道により確認でき、Shiraishi and Kaifu(2024)は、近年の輸出急増について、ヨーロッパウナギの二の舞になるのではないかと警鐘を鳴らしている。「日本人が世界のウナギを食べつくした」と揶揄される日が近づいているのかもしれない。
絶滅危惧種指定によって、かえって需要が増えてしまう
さてわれわれ消費者は、こういう危機的状況を知ったとき、「ウナギを食べるのはよそう」と思うのか、それとも「食べられなくなるのなら少々高くても今のうちに食べておこう」と思うのか。絶滅危惧種指定に乗じて、かえって需要が喚起される現象は「絶滅危惧種ビジネス」と呼ばれる。
全国に2500店あると推定されているウナギ専門店は生きたままのウナギ(活饅)を仕入れ、店でさばいて蒲焼にする。量販店は加工場で蒲焼にされた商品を仕入れて販売するが、ここにも国産蒲焼とともに蒲焼として輸入されたウナギが入って来る。
ウナギ消費ルートを消費者が購入する最終的な窓口で分けると、主として「川魚料理店」、「ウナギ専門店」、「量販店」の3つに大別できる。出自が最も明快なのは川魚料理店で、そこで供される天然ウナギは100%国産と言ってよいだろう。ウナギ専門店は国産活饅と輸入活饅のどちらも取り扱うが、どの店が何を取り扱っているのかはわからない。ウナギ専門店には「うちのは国産活饅です」とか「松は国産活饅で、梅は輸入活饅です」などと表示する義務はない。