ウナギの子であるシラスの「良い密輸、悪い密輸」

シラス輸出については香港の「密輸」を特記しておくべきだろう。香港にはシラスは遡上しない。しかし香港からは6.7トンのシラスが入ってくる。これには筋の良い密輸と悪い密輸がある。

筋の悪い密輸はヨーロッパウナギのシラスである。ヨーロッパや北アフリカで国内消費を装って採捕し、輸出証明書が発行されていないにもかかわらず香港へ密輸されるというルートがあると推察されている。それらがさらに香港から中国の養殖場に搬入・飼育され、ニホンウナギの蒲焼として日本に輸出されるものもあると推察されている。

活魚ならまだ、目利きであればヨーロッパウナギとニホンウナギの見分けがつくかもしれないが、蒲焼になってしまうともう、ほとんどの人にはわからないのではないか。筆者はかって、JETROが主催したASEAN産品の輸出促進展示会で、インドネシアで捕られたビカーラ種の蒲焼を試食したことがあるが、それまで食べたことのある蒲焼と何ら違いを感じなかった。

うなぎの炭火焼き
写真=iStock.com/ma-no
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筋の良い密輸の1つは台湾からの輸入で、これは日台間で互いのビジネス利権を守るために意地を張り合った結果の産物である。「輸出しない」と言いながらも、高値がつく良い時期に日本にシラスを輸出したい台湾の業者が、中国を経由して日本に輸出している可能性がある。

また、近年ではアメリカウナギの輸出も急増しており、これが香港へ輸出され、中国で蒲焼になって日本へ輸出されている可能性がある。2024年6月時点ではアメリカウナギはワシントン条約上の絶滅危惧種には指定されていないので、こちらも良い密輸のほうに入れておくこととする。問題は、良い密輸といえども密輸なので、数量が把握できないことにある。そのために、差額としての悪い密輸の数量も把握できない。

完全養殖で「増やして食べよう」がファイナルアンサー?

ウナギの親子市場をこれ以上痛めつけずに、しかしウナギを食べ続けるシナリオを考えてみたい。その1つは完全養殖である。近大マグロのような、天然種苗に頼らない生産の循環だ。

2010年に国立研究開発法人水産研究・教育機構が成功し、近畿大学も2019年から同機構のOBを迎えて完全養殖を目指し、2023年に完全養殖に成功した。水産庁によると、年間数千尾の人工シラスウナギを生産できる段階にきており、その生産コストは約3千円/尾であるという。これは天然シラスの高値圏の価格である600円/尾のたった5倍であり、商用ベースに乗るのも間近ではないのか。寄付を通じて2倍の価格を喜んで支払う消費者層がいるのだから、「天然資源に影響を与えない人工シラスから作ったウナギの蒲焼、2万円」に食指が動く人は、数千人くらいはいるだろう。